非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

人手不足

今の清掃の現場は、去年の10月から働き始めている。
清掃は二人体制になっているが、常にもう一人が次々と辞めていくので、辞めるにやめられない状況になっていた。

それでもやっと本社の経理部長の知り合いの女の人が来たので、これでやっと辞められる、と密かに思っている。
諸事情の関係でまだ辞めていないが、私が辞めたらきっとこの清掃会社も困るだろう。

同じ会社の現場でテナントビルの清掃もしている。
このテナントビルの現場責任者は矢代さんという50代の男の人だ。
清掃はアルバイトの他に本社の営業の人が矢代さんのかわりにくることがある。
その本社で西田さんがたまに来ることがあったが、その西田さんが辞めることになった。
西田さんは、矢代さんと同世代だ。
表向きは奥さんのお父様が亡くなられたので、その会社を引き継ぐ、ということらしい。

西田さんは、清掃員にしてはいつも小洒落た格好をしていて、スタイルもよく、人当たりも良かった。
スタイリストな西田さんが、こんな、と言っていいのかわからないが、よくこんな掃除の仕事をしているな、とは思っていた。
仕事はこなしていたが、実はあんまりこういう掃除の仕事は好きではなかっただろう。
仕事ぶりは雑で、ゴミ袋さえ手に持つのも嫌そうだった。

私はいろんな担当営業の男の人が清掃の仕事をしているのを見るようになって、その人の清掃のスキルがどれくらいかわかるようになった。
そして、掃除の仕方でその人が掃除に対してどのような気持ちでいるかもわかる。
ほとんどの人の仕事ぶりはど素人で、とおりいっぺんな仕事ぶりである。
掃除をしてきれいにしよう、という気持ちはなくて、掃除を内心では汚い仕事だ、と思っている。
だから、清掃の仕事に対して実は腰が引けているのだ。
西田さんはこの清掃の仕事が嫌で嫌で仕方がなかっただろう。
そして、その仕事を毎日押し付けられ、ほとんど休みがなかったのだ。

西田さんは代務員という、アルバイトの清掃員が急に用事ができたり体調を崩したりした時に、代わりに清掃の仕事をする人かと思っていたが、そうではなかった。
休みを予定に入れていても、気がつくと仕事を入れられていて、休みが取れなくなっていたのだという。
矢代さんに言わせると、他の人達が仕事を入れられないようにうまく逃げているので、西田さんのように人のいい人にその仕事のしわ寄せがくるらしい。
さらに、半年か3ヵ月に1回、各清掃の現場の報告書を書かなければならなかった。
それが150ヵ所ぐらいあり、その報告書を書くためにその現場にも行かなければならなかったそうだ。
清掃の現場をおしつけられ、さらに報告書を作成し、それ以外にもいろんな雑務があったので、いったいどれぐらいの労働時間だったのだろう。

他の本社の人の話を聞いてみると、西田さんは今はまだ有給休暇を消化しているので休んでいるが、その西田さんの仕事を他の営業部員が手分けしてやっていて、とても大変らしい。

現場が増えているので募集をしているが、人が来ないし、さらに胃潰瘍で倒れて入院している人もいて、その上西田さんも辞める。
以前はブラックもブラック、と営業部員が自嘲気味に言っていたが、今は笑い事ではなく、ほとんどの営業部員は過労死ラインの月100時間の残業をこなしているらしい。

アルバイトがなかなか決まらない現場は、担当営業がその間清掃の仕事をすることになり、この現場の担当営業の田中さんもずっとこの現場の仕事をしていた。
毎朝6時半の現場の仕事は結構キツかっただろう。
最後に来た時は、疲れきった表情でほとんど口も聞かず、時間ギリギリに来て、必要最低限のゴミ集めと各フロアの掃除機かけをして、あとは魂が抜けたような表情で事務室でぼぉっーとしていた。
そして、他の営業部員が来るようになった。
田中さんは以前から忙しく、過労で倒れて入院したこともあるが、今は月100時間の残業をこなしているらしい。

どこも人手不足なので、非正規労働者の時給は上がってはいる。
それでも清掃の仕事をしている人たちはほとんど2つ以上の現場の仕事をしている。
清掃会社は募集をかけてもなかなか人が集まらないと言うが、働く側は時給や時間帯、清掃内容などを結構シビアに選んでいる。
だから条件の悪い所はいくら募集をかけても集まらないんである。

少しでも条件のいいところで働きたい、というのが非正規労働者の本音で、気に入らなければ辞めて新しいところを探す。
結局のところそんなに大した差があるわけでもない。
それでもやはり探す方は必死なのだ。

ところが正規労働者は今の待遇が不満でも、他に行くところがなければ逃げ場がない。
このままいけば過労死だと思っても、今の職場にしがみついて必死に働いている。

西田さんは表向きは奥さんのお父様の事業を引き継ぐ、と言っているが、残った営業部員は今の会社や仕事に強い不満があるから辞めるのだ、と思っているだろう。

人手不足でぐるぐる回っている。
でも、ほとんどの労働者は強い不満を持って働いている人たちのような気がして仕方がない。