非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

ゆとり君

清掃会社のバイト先で、お昼休みに社員の人たちと話をしていた。

テナントビルの責任者の矢代さんと、もう1人はゆとり君である。
ゆとり君は30代なかばだが、童顔なのか、そうは見えない。

ゆとり君は、ゆとり世代と言われているセーネンだ。
そのゆとり世代というのは、文科省の2002年施行の学習指導要領による教育を受けた世代のことである。
今までの受験戦争と言われた過度の受験競争の反省から、文科省が大幅に学習量と授業時間を削減し、学校が週休2日制に移行したのをゆとり教育と言われた。
一方では学力低下を懸念する声もあり、逆に学習塾に通う生徒も増えたそうである。
年代では、1987年以降生まれのゆとり教育を受けた世代がゆとり世代である。
私は見ていないが、テレビで少し前に「ゆとりですが、何か」というゆとり世代を主人公にしたドラマが話題になったりした。

J-waveのナビゲーターの堀潤氏はゆとり世代なのだろうか、たまに自分が生まれた時代は右肩上がりの景気は期待できず、この先いいことない時代だと感じていた、と言っていた。
バブル景気は1986年から1991年までと言われるので、ちょうどこのゆとり世代と重なる。
しかしバブルを経て2001年にはデフレ宣言がされ、さらに2007年のサブプライムローン問題、そしてリーマンショックから世界的な金融危機が起こり、2011年には東日本震災と、日本と世界の変換期の時期に育った世代と言ってもいいかもしれない。
世界や社会の大きな変換期の影響をモロに受けた世代といってもいい。
就職率も、その時々の景気に左右され、考え方によっては前のバブル世代に比べれば割を食った世代である。
だからなのか、世の中を達観しているというか、諦観しているというか。
バブル世代のよう自己主張や問題意識はなく、何事もほどほどでいい、と思う世代でもある。

ゆとり君はこのゆとり世代の特徴とドンピシャに当てはまる。

矢代さんは50代前半、ゆとり君は30代なかば、私はこの2人と話をしながら、こっそり2人の考え方を比較したりしている。

ゆとり君は本社採用で、矢代さんの下について、清掃の仕事はこのテナントビル担当になっている。
矢代さんは日、月休みの週休2日で、ゆとり君も基本的には土日休みの週休2日である。

ゆとり君も矢代さんも、ガツガツ仕事をするのはまっぴらで、年代は違うがなぜか2人の意見が一致しているのが不思議だ。
ゆとり君は半年前に入社したが、入社後すぐに結婚した。
結婚するので、この清掃会社に入社することになったのだろう。
50代前半の矢代さんは結婚しているが、子供がいるのだろうか、聞いたことがないのでよくわからない。

その2人が会社のことについて、あれこれ話をしている。

ゆとり君が、
「事務員がやめたんだから、1人補充してほしいんだよね。」と言う。
本社の事務員が2人いたが、1人辞めても補充しないそうだ。

この会社は人が辞めても補充しないらしい。
その上、西田さんという50代の男性社員が3月に辞表を提出し、4月は有給休暇の消化をして、5月に辞めてしまった。
西田さんは、毎月各現場のタイムカードを集める係になっていて、その現場だけで50ヵ所ぐらいあったらしい。
各現場が宅急便で送ればいいだけだが、それをわざわざ取りに行き、辞めた事務員の代わりにバイト料の計算を西田さんがやっていたらしい。
しかし、西田さんが辞めたので、男子社員がそれぞれ手分けして、各自の担当の現場のバイト料の計算をやるようになった。
他人事だが、ちょっとこの会社、ひどくないですか。

ゆとり君も矢代さんも
「給料安いけど、会社は儲かってると思いますよ。」
と言う。
本社のだれそれさんは、
「多分月300時間は働いていますね。」と平然と言う。
「それで本人は何もいわないんですか?」と聞いても、
「まぁ、いっかなぁ〜、とか言ってますよ。」
「まだ若いし、お金が欲しいからいいんじゃないの。」と矢代さんが言う。
「あ、でも、残業代減らされた、とか言ってたな。」と、ゆとり君。
「あんまり残業が多すぎると、たしか労基署からなんか、言われるんじゃないかな。」と私が言っても、労基署と聞いても二人共動じる気配はない。
私はその人に思い当たる人がいて、たぶん30代なかばかせいぜい30代後半で、まだ40代にはなっていないと思われる。
その人は独身のもっさりした感じの人で、前はわりと気さくに話をする人だったが、私が何回か現場の仕事を断ったので、それ以来私に対してはいい顔をしなくなった。
「本社の人たちはほとんど月100時間は残業しているからね。いつ、誰が過労死してもおかしくないですよ。」と他人事のようにゆとり君は言う。
最近では、1人胃潰瘍で倒れて入院しているそうだ。
そのためにまたみんなでその人の仕事を手分けしてやっているので、さらに残業時間が増えているらしい。

私が不思議なのは、そんなに大変な仕事をしているのに、誰も会社に何も言わないことである。
まっ、いっかなぁ〜、で済ませて胃潰瘍になったり、過労死ギリギリで働いているんである。

本当に会社丸儲けである。

「そんなふうだと困るんじゃないの?」と言うと、
「まぁ、たしかに困りますよね。」
と真顔でゆとり君は言うが、矢代さんはこのテナントビル専属の清掃員なので、我関せず、である。

ゆとり君に、会社に何とか言うとか、もうちょっと改善するように働きかけた方がいいんじゃないかと言っても、
「えっ、そんな。ダメっすよ。
そんなことできないっす。」
と、他人事なんである。

矢代さんの年収は、週休2日で、朝7時から午後4時勤務で300万だそうだ。
この金額は安いのか高いのか。
住宅は都営住宅、奥さんもパートかアルバイトをして、矢代さんは毎週休みには東京近郊の温泉にバイクか車で行く余裕がある。
贅沢をしなければそこそこ暮らせるからそれでいいらしい。
ゆとり君の年収も多分それぐらだろう。
しかし、矢代さんの話では、本社の人間に「もう少し仕事をさせてほしい。」と頼んだらしい。
ゆとり君はあまり仕事をガツガツやるタイプではないが、多分奥さんに何か言われたのかもしれない。

2人はその後、本社の60代の上司の話を始めた。

本社には本部長と副部長がいて、この間昇進した本部長は平林本部長で、副部長は神田部長である。
問題はこの副部長の神田部長だ。
神田部長は、年齢は62、3で、多分あと2、3年で定年だ。

この営業職の神田副部長が問題なんである。
バブル時代を生き抜いて来ただけあって、神経が図太く、ガハハ笑いの押しの強さで仕事を取って来る。
しかし、基本的に清掃の現場に精通しているわけではない。
ただ、仕事を取ってきて、あとは男子社員に仕事を丸投げするので、後で仕事の段取りで苦労するらしい。

二人共とも淡々と神田副部長の悪口を言う。
「とにかくさ、現場をかき回してぐちゃぐちゃにするんだよ。」
「それで現場の仕事をぶち壊す。」
「仕事を取ってきて、人を募集して、面接するのも副部長の仕事なんだけどさ、なんでも自分で勝手に決めるのはやめてほしいよね。」
「どんな人が来るのか、一言先にいってほしいわけよ。」
「それで、求人の内容が週2日と土曜の現場だったのに、土曜は出来ない、って人を採用したから、仕方なく担当営業が土曜日に現場に出て仕事してるんだよ。」
「新しい現場の仕事で、やっといい人が決まってよかった、と言っていたのに、他の人をその現場に勝手に決めちゃったりするんだよ。
その上、その人がその現場の仕事が気に入らない、ってへそを曲げたので、回りは大変だったんだよね。」
「このテナントの募集だって、募集は週4日だったのに、応募してきた人がどうしても週5日働きたい、って言うから、わざわざ今いる人のシフトをずらしたんだよね。」
「普通、後から応募してきた人は、その応募の内容に合わせるものなのに、なんでそういうことするかな。」

とにかくバブル時代に仕事をしてきた人なので、いまでも1日10時間や12時間ぐらい平気で働く。
矢代さんに言わせると
「神田副部長は仕事大好き人間だからね。朝5時には会社に来てるんだよ。」
そして、今はどこの現場も人がたりないので、神田副部長も現場に行って清掃の仕事を代務しているらしい。
しかし、
「あの人で務まるのか。」
とみんな首をかしげているんだが。

休憩時間に新聞を読みながら、たまに世間話のように政治の話を振ってみる。
二人共、見事に政治に全く興味も関心もない。

安保法案がとうとう国会を通過するらしい、と言う時に、「そのうち戦争するようになりますよ。矢代さんの子供も戦争に行くかも。」
と言っても、自信なさげに、
「戦争は、ないんじゃないかな。」と言う。

ゆとり君は、「首相も他にテキトーな人がいないからしようがないですよね。」と言うが、そういう問題なのか、とつっこみたくなる。

生まれた時から携帯やパソコンがあって、ネットやSNSがあるのが当たり前だったゆとり君は、仕事中でも暇があるとスマホをいじっている。
一方矢代さんは会社から一方的に押し付けられたスマホはメールの送受信がやっとである。
会社からパソコンで添付資料が送られてきても、その資料が開けなかったりする。

考え方は同じようでも、世代間格差はあるらしい。

少し前にラジオを聞いていたら、ゆとり世代の新入社員が入ってきたら、「小林」という漢字が書けなくて、「コバヤシ」と書いたらしい。
こういう新入社員とどう接していいかわからないそうだ。

要領がいいんだか悪いんだかわからず、どんな場所にも意外と馴染み、あまり物事を深く考えない、ように見えるが、本当はどうなんだろう。
ゆとり世代と言われても、そういう人が身のまわりにいないのでよくわからない。
ただ、正社員で働いていた頃、新入社員で入社してくる社員のレベルがどんどん下がってきている、という感じはしていた。
前の人達が半日でできることが出来なかったり、簡単な事務処理が出来なかったり、びっくりするほど常識のない人たちが残念ながら増えてきた、と思うのは私がおばさんになったからだろうか。

考えてみると、私が新入社員で入社した頃は、毎日注意ばかりされていた。
しかし、注意されていた割には全然聞いていなかった、ということに気がついたのはもっとずっと後のことである。

今、私は末端の非正規労働者なので、特別人を注意することはない。
それでもたまにお店の店員があまりにも常識がないので、注意することはあるが。

矢代さんの清掃の仕方は丁寧で、掃除をしたあとはきれいだ。
しかし、矢代さんがこっそり言っていたように、ゆとり君の仕事ぶりは、
「とりあえず、掃除してみました。」という程度で、中の下の仕上がりである。
本人は清掃の仕事にこだわりもないし、掃除をしてきれいにしよう、という気持ちはないらしい。
仕事に情熱も思い入れもない。
だからといって、ゆとり君の仕事ぶりを批判するつもりはない。
かつての私も事務の仕事をとりあえずやっていただけなので、仕事は通り一遍で同じミスを何回もしていたのだから。

50代、60代がしぶとく日本社会の中枢に居残っている。
しかし、ゆとり世代の若者が日本社会の中枢の仕事をするようになると、いったい日本はどのような国になっているのだろうか。