非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

人手不足

夜勤の後藤課長は、最近はほとんど顔を出さなくなったので、仕方なく辻次長がシフトなど人の管理をやることになった。
辻次長は50ちょっとでたぐらいの男性で、役職から見ても、在職年数が長く、この業界のこともよくわかっているのか、何を言われても淡々と業務をこなしていく。
達観している、というべきか。
後藤課長のように、アルバイトの電話には出ず、意見もろくに聞こうとしないのに比べると、アルバイトの話は聞くし、口調もやさしい。
温厚でやさしそう、頼りがいがある、と最初は思っていた。
しかし、その態度や物言いをよくよく見てみると、一見人の話を聞いていそうで、辻次長本人がどうでもいいと思っていることや、メンドクサイことは話してもスルーしているんである。

今はどこでも人手が足りない。
ご多分にもれず、この現場でも人手が足りていない。

会社は15日締めで、シフト表はその締め日に合わせて夜勤のシフト表が控室の入り口に貼ってある。
それを見ると、1月16日から2月15日までのシフト表の欄外に赤い○が付いていた。
その横にメモが貼ってあり、「1月中旬から2月中旬まで、7人作業のところ、赤い○の付いている日は6人以下で作業しています。月にして、約半分です。
人員の補充のご配慮をお願いします。」
と書かれており、その横に大野、と書かれてあった。
大野君というのは30前後の青年だ。
就活がうまくいかなかったのか、夜勤の清掃をやっている。
真面目に仕事はするが、いろいろ会社に対して意見したりするので、会社側からすれば、ちょっと理屈っぽく、メンドクサイ人かもしれない。
しかし、消耗品の発注など、責任者のいない夜勤の細かい雑用を大野くんがこなしているので、夜勤の仕事はなんとか回っているんである。

夜勤は日勤の人たちに比べてもいい加減な人や事故や病気になったり、急に休む人が多い。

ある地下アイドルの二人組は、日中はダンスなどのレッスンや劇場に出演したり、いろんなオーディションを受けるため、遅刻したり早退したりしていた。
それは、最初の面接していた時に辻次長が許可したので仕方がなかったが、他のアルバイトの人たちはそれをかなり不満に思っていたようだった。
さらに2人のうちの1人は、とうとう疲労骨折になって入院し、その後自宅安静となって結局辞めてしまった。
もう一人の地下アイドルは心細く思ったのか、一人が入院してしまったのでしばらく来なくなった。
その後連絡を取って来るようにはなったが、だんだん遅刻が多くなり、さらに当日になってドタキャンするようになった。

それがあまりにも多くなり、連絡も当日の作業時間ギリギリになって連絡がくるようになった。
シフトの予定もスケジュールの都合でギリギリにならないと組めない。
結局辻次長が、当日のドタキャンは原則認めない、前日の5時までに連絡すること。
ただし、急に体調が悪くなった場合などは仕方ないとしたが、急なドタキャンは欠勤扱いになり、減給になる場合もある、と通達を出した。
それでもドタキャンが続いたので、とうとう辻次長がその地下アイドルに「ちゃんとシフトどうりに行けるようになったらまた来てください。」と申し渡した。
地下アイドルは「それって、クビってことっすか。」と聞いていたが、結局の所そのとおりだろう。
休みは早めに連絡すること、とか、ドタキャンしないように、とか最初は注意していたが、それがどんどんひどくなっていった。
何日も無断欠勤していても、数日後にシレッと現場に現れたりしたこともあったらしい。
それでも、「すいませんでした」の一言もなく、急に現場に来て、「あれ?オレの作業服知りませんか?」なんて、平気で聞いてきて、回りは呆れていたらしい。

その他にも、日中は配送のバイトをこなし、2、3時間の仮眠を取って夜勤の仕事をした青年も、結局睡眠不足のために事故を起こし、2ヵ月の入院になって辞めていった。
ある60代の女性はダブルワークで仕事の帰り、疲れて居眠りをして、急いで降りようとして階段から転げ落ちて背中を強打し、背中の骨がずれて腰痛になったそうだ。
それで清掃の仕事を続けられなくなり、しばらく休む事になった。
辻次長は、クビにはせずに、「しばらく休んでください。」と言っていた。
そして、とうとう人手が足りなくなったので、何回も電話をしたが、結局電話には出なかったそうだ。

その他にもある主婦の人も、ある日来てみたら、自分のシフト表に○がなかったので、急に「辞める」と言い出して、そのまま帰ってしまったという。
入り口に貼ってあるシフト表は、夜勤の責任者が作っていた。
ところが後藤課長が辞める、辞めないの話になり、後藤課長がシフト表を作らなくなった。
それで、シフト表は自己申告制になったのだ。
だから、自分のところに丸がついてなくても、自分で出勤できる日に丸をつけなければならなかったらしいが、その女の人はそれがわからず、キレて辞めてしまった。

こんなふうに色んな人が次々に辞めていったり休むようになり、残った人の仕事の負担が増えたが、辻次長がなかなか人員の補充をしなかったので、それを不満に思った大野君はとうとう辞めてしまった。
辻次長の対応が遅かったのだ。
結局新しい人員の補充に、ベトナム人が2人と、60代の日本人の男の人が2人入ってきた。

しかし、結局60代の日本の男の人は2人とも辞めてしまった。
辞めた理由はそれぞれで、体力的にきつい、と言って辞めていった人と、もう1人は何も言わなかったが、とてもバカバカカしくてやってられない、と思って辞めたんじゃないかと、夜勤の人たちはいっていた。

日勤の女の人が夜勤の清掃の仕事を、「こういう仕事は日本人が嫌う仕事なのよ。」と言っていた。
夜勤の清掃の仕事は、これからは外国人が多くなるんだろう。
事実、その後入ったベトナム人の紹介でさらにベトナム人が2人入った。
夜勤の人に言わせると、日本人は入ってもすぐに辞めてしまうか、しばらく働いて辞めてしまうが、紹介で入ったベトナム人は絶対にやめないと思うそうだ。
夜勤はとうとう外国人率が上がっていて、7人の作業員のうち、ベトナム人が3人とか4人になって、約半数が外国人労働者である。
工場のラインの仕事だと、もっと多いかもしれないが、7人しかいない現場で半分が外国人、というのは本当に人手不足なんである。
そして、外国人労働者が増えるとどうなるか、というと、同じ国の人たちが固まると、サボったり、おしゃべりが多くなる。
さらに集団で勝手にいろんなことをするようになる。
たとえば、スプレーに入れる液体が同じ色ということで、全く違う液体を入れてしまう。
それを日本人の夜勤の人が気がついて、そのスプレーの液体を捨てたので、大事には至らなかったらしい。
夜勤の清掃では危険な液体なども使うが、きちんと管理できているんだろうか。
前辞めた大野君がそういった薬品なども管理していたが、今はいったい誰が管理しているのかわからない。

連絡ノートや壁に連絡業務を書いても、ベトナム人は日本語もたどたどしく、日本語が読めない。
その上責任者や管理する人がいないので、ベトナム人にきちんと連絡業務や説明が行われているとは思われない。
夜勤の日本人でさえ、連絡ノートも読まないし、自分の持ち分の仕事しかしない人が多いので、横のつながりやコミュニケーションが図れているとは思われない。
その上、全く違う言語を話す人たちがいて、そのうち事故が起きるかもしれない。

今はこういう末端の清掃の仕事は、ベトナム人が多く、韓国人や中国人はいない。
以前コンビニで中国人、韓国人と思しき外国人がよくバイトをしていたが、今は見かけなくなった。

夜勤のベトナム人の紹介で、ベトナム人の女の子が日勤の土日のバイトに入って来た。
彼女が入ってきた日に、辻次長から別件で電話がかかってきていて、
「彼女は真面目にやってますか?」
「真面目に一生懸命やってますよ。」
と答えたが、
「最初が肝心だから、キツく言ってください。」
などと言われてしまった。

この言い方に驚いていたが、たしかに夜勤のベトナム人はいつもツルンでいて、おしゃべりが多く、だんだんサボるようになったと言う。
そして、夜勤にベトナム人が増えてから、店舗内の清掃は以前より汚くなったのは確かだ。

若い日本人の若者は、ドタキャンが多く、仕事以前に常識がなかったりするが、一方真面目な日本人はこうした現場に嫌気がさして辞めてしまう。
年配の日本人も、こうした身体のキツイ仕事は出来ないか、やはりバカバカしくなって辞めてしまう。
結局残るのはこうした外国人労働者である。
しかし、外国人労働者が悪いわけではないが、外国人労働者は言われたことしか出来ない。

新しく来たベトナム心の女の子が、教えた仕事の順番を替えてしまったので、なんで替えたのか、と聞いても、日本語がたどたどしいので、うまく説明出来ないでいる。
相手の言っていることは分かっても、自分の考えを伝えることができないので、ベトナム人の考えていることが結局はよくわからない。
それでも仕事の順番には、仕事の流れの意味があるので、その順番どうりにこなしていかないと困る、と説明して、その順番でやってもらうことにした。
結局、見よう見まねで相手のやっている仕事をすることは出来ても、仕事の意味を理解しているわけではないんである。

それでも日勤は外国人が一人で、さらに一緒にシフトに入っている人が、言葉は悪いがいつも見張っているので、大事には至らない。
これが夜勤のように半分以上が外国人だったら、と思うと、ゾッとする。

生産性を上げる、ということは労働環境を整えるところから始めないと上がらないが、今の企業の考え方は、そうしたことに投資もせず、さらに考えも至らない。
ただ単純に人件費を安くあげたい、さらに人手が集まらなければ外国人労働者を雇えばいい、という安直な考え方である。
今は末端の労働環境がこれだけ劣化しているんである。