非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

努力しても報われない社会

堀江貴文が「日本人はみんなが嫌がるような仕事でも安い賃金で一生懸命仕事をしてしまうので、賃金が上がらない」とツィートしていた。
さらに、他の人のツィートで、過労死が減らず、賃金が上がらないのは、日本人が真面目で勤勉すぎるからで、「こんな仕事やってられるか」とか、「賃金を上げろ」とストやデモをせず、声を上げないのが原因だ、という。

電通の新入社員の女性が過労死した記事がニュースに出ていた。
東大を出て、電通に入社し、インターネット広告の仕事をしていたという。
残業は月に100時間を超え、上司からは「女子力が足りない」「充血した目で会社に来るな」と言われ、1日の睡眠時間が2時間、土日出勤も当たり前だったという。

電通は最近ネットによる不正請求が問題になった。
広告料の過剰請求や実績レポートの虚偽報告などを行っていたとし、こうした不正が疑われる取引は広告主111社にのぼる633件。取引総額は約2億3000万円。
さらに広告掲載していないのに請求を行っていた取引は14件、約320万円あったという。

上記の自殺した女性のいた部署がその部署だったらしい。
今までのマスメディア4媒体、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌に代わり、ネットの普及とともにネット広告費は2015年で1兆1594億円。
5年前と比べて49.6%増えている。
テレビ離れ、雑誌、新聞の売上が大きく落としていることから、広告はネット広告に移行している。

しかし、ネット広告はまだまだ新しい広告で、実は広告立案がむずかしい。
ネット広告の専門の代理店がいて、それなりのノウハウがあり、毎日パソコンに貼り付いてデータを取っていく。
電通がそのノウハウを持っていたとは思われない。

ネット広告はかなり特殊で、広告効果はすべて数値化される。
トヨタがネット広告をしても広告効果がない、と最初に気がついたそうだが、あまり効果がないことが電通側でわかり、データを改竄して広告主に提出させていたのかもしれない。
だからネットの不正請求が問題になったのだろう。

それを入社1年の新入社員に担当クライアントをつけてやらせていても、とてもできないだろう。
通常の営業活動の他にも飲み会の幹事や雑務もやらされていたので、睡眠時間もほとんどなかった。

この女性の過労死自殺について、大学の教授が「月100時間超えで自殺は情けない」とツィートされたが、これがまたまたネット上で炎上し、この大学ではこの教授の処分が検討されているらしい。
確かに、月100時間残業しても死なない人はたくさんいる。
しかし、100時間が残業時間のボーダーラインで、100時間を超えると心身ともに支障をきたし、それが長期化すると、やはり身体的に大きな問題になる。

私は彼女が残したツィートを幾つか読んだが、そこには労働に対する楽しさや喜び、というものは全く感じられなかった。
そこにあるのは自分を犠牲にして会社に奴隷のように奉仕している姿で、それが非常な苦痛でしかなかったことである。
さらに、それに追い打ちをかけるような上司のセクハラ、パラハラによる屈辱的な言葉の数々。


昔、私が営業をしていた頃、思い出してみると上司から相当ひどいことを言われていた。
それは私自身の言動に問題があり、常識を欠いていたからで、私自身に問題があったと思う。
そして、私はその頃他人に興味がなかったので、何を言われてもあまりこたえていなかったような気がする。
それでもかなりひどいことを言われていたようで、当時上司から
「そういうこと言われて、よく平気でいられるな」
と逆に関心されたりしていた。

多分「女子力がない」と言われても
「はい、そうですか」
と流していたか、
「女子力なくて、いけないんですか」
ぐらいは言っていたような気がする。
その頃は女子力なんて言葉はなかったが、よく
「もっと女を利用してうまくやるんだよ」と男の上司や同僚から言われていたのを覚えている。

社長に挨拶なく先に帰った、と言ってある中小企業の社長が激怒し、クビになったことがあった。
辞める時、その時の経理の課長が、「僕は君のことを本当は買っていたんだよ」と言われた。
でも、辞める時に言われても、もう遅いんだけど。

上司から「女子力がない」と言われても、
「私、女子力がなくて」と開き直るか、
「女子力がなくていけないんですか」と言うか、
いやいや
「女子力がなくて、何か?」
と言えればよかったのか。

電通は募集の半分が縁故なので、入社はかなり狭き門である。
ある人のブログを読んでいたら、電通に入った人たちは辞めたら負け、という気持ちが強いという。
仕事は激務で、クライアントによっては女性のパワハラ、セクハラがひどいが、上司や先輩がかばってくれるので、何とか頑張れるのだという。
会社を辞めて独立したり、成功した人は一握リしかいないので、そういう人以外で辞めて行った人たちは負けたのだ、と残っている人たちは思っている。
東大に入るには1日10時間ぐらい勉強したはずで、さらに狭き門の電通に入ったとしたら、その女性には成功体験しかなく、辞める、という選択肢はなかったのか。
会社を辞めて、一度人生から降りる、という気持ちがあれば、自殺しなくて済んだのに、と思う。

今の若い人たちは気の毒だ思う。
仕事が苦役、苦痛でしかなく、なんのために働いているかがわからない。

エリートと言われる人たちは、成功体験が忘れられないので、人生から降りることができず、一つつまずくと自死してしまう。
さもなければ、一度降りてしまうとその後どう生きて行ったらいいのかがわからなくなる。

また、今までの労働市場の枠組みだけが残っているので、その枠組に入れない若者たちはきちんとした会社に入れず、ブラック企業にしか入社できない。
ブラック企業は社員全員がブラックなまま働かされるのではなく、若者だけがブラックな働き方を強制されたりする。
ブラック企業に入れないか辞めた人たちは、一生非正規労働者として働かざるをえない。
今の社会は失敗してもやり直しができない社会だ。

社会そのものが歪んでいるが、その割を食っているのが若い人たちだ。
世の中、50代、60代のオヤジたちにしてやられているが、若い人たちは社会や世の中の常識や枠組みを素直に信じ、やすやすと組み込まれてしまっている。

少し前、オレオレ詐欺について書かれた「老人喰い」という鈴木大介の本を読んだが、最後に「オレオレ詐欺は絶対になくならない」と書いてあったのが印象的だった。
オレオレ詐欺」は老人の孤独と若者たちの社会に対する怨嗟、これがなくならない限り絶対になくならない構図になっている。
そして、最後に書かれた一節に、今の社会は努力しても報われない社会、という言葉があって、この言葉にひどくショックを受けた。