非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

隣のブラック企業

前辞めた掃除の現場は、駅前にあるオフィスビルだった。
掃除は朝7時からで、セキュリティカードでビルに入り、各階のオフィスの施錠を解除するのが朝一番の仕事だった。
ところがある階のオフィスの男性社員だけが、7時10分前に出社したので、同じ掃除のおばちゃんから、その男性社員より先に来てカギを開けるように、と言われた。

最初の頃は、仕方なく少し早めにバイト先に向かっていた。
ある時その男性社員が、駅前の喫煙場所で一服して、その後コンビニに入って行くのを見た。
その後、何食わぬ顔でその男の人の階のオフィスに行くと、コンビニで買ったと思われる缶コーヒーとパンを片手に、パソコンでYahooのトップページのトピックスを見ていた。
なんだ、早く来て、ネットサーフィンをしているのか。
たぶんこの男性社員は、朝誰もいない会社で一人くつろぐのが好きなのだ。

朝早く出社したり、休日一人で会社で仕事をする。
そういう社員はどこの会社の部署にも一人はいると思う。
新入社員、というよりも中堅どころか、ちょっと役職のついている人が多い。
そして、そういう社員はたぶん早く出社したからと言って、定時で帰る、ということはない。
自宅にいるより、会社にいる方が長い。
下手したら、家族と過ごしたり、話をする時間より、会社にいて社員と話をする時間の方が長いかもしれない。

前働いていた会社で、ある男性社員から聞いた話だが、小さい会社だったからか、社長が帰るまで社員は帰れなかったという。
ある時、その社員の義父が危篤になったが、社長がなかなか帰らないので、言い出せずにとうとう間に合わなかったそうだ。
それで、こんな会社にいつまでも働いていても仕方がない、と思い、会社は辞めてしまったという。

正社員の長時間労働が問題になっている。
特に、ブラック企業では新入社員や中途社員に長時間労働や異常なノルマを強いたりする。
長時間労働をしたからと言って、残業代は払わない。
一方、ブラック企業は、全員がブラックで働いているわけではない。

たとえば友人の働いているブラック企業は、社長が創業したワンマンで小さい会社だ。
創業当時と仕事や取引先が全く変わっていない。
社員はただ今までの仕事をルーティンで回しているだけである。
社長はそれではじり貧だと思い、新しいビジネスチャンスや事業を拡大するために新入社員やキャリアのある中途社員を募集する。

しかし、今までいる社員は新入社員に仕事を教えたりせず、厳しいノルマだけを与えたりする。
下手に仕事を教えて、自分よりできるようになっては困るからだ。
当然仕事を教えてもらえないので仕事はできず、今までいる社員が経営者にあいつは使えない、と言ってクビにさせてしまう。
創業当時からいる社員とか勤続年数が長い社員は、だらだら働いてはいるが、それなりの報酬はもらっている。
長くいる社員は、今までの仕事には慣れているが、新しい仕事はできない。
仕事は教えずノルマだけを与え、長時間労働のような仕事は中途社員にふり、自分は死なないような仕事のやり方をする。

ずっといる社員は人間関係も固定化していて、就業時間が終わってもだらだらと会社にいて、その後近くのいつもの居酒屋で飲んで帰る。
情報を共有するために、営業部員全員にタブレットを使うのはどうか、と会社側から言われても、今までいる社員はタブレットが使いこなせないので、「別にいらないかなぁ〜」と言って断っていたそうだ。
こんな会社に未来があるんだろうか。

私が最後に勤めた内装関係の会社もブラックだった。
取引先はハウスメーカーやマンションの大手販売会社だったので、住宅の展示会やマンションの新築物件があると、土日は販売会に営業部員は出なければならなかった。
戸建て住宅やマンションは、ただ箱を買うだけでなく、実際に住むためには床材や壁紙などの内装や、クーラーや照明などの家電、さらに浴槽などの水回り関係などの手配が必要になる。
そのため、販売会や説明会、受注会などにはそうした関係の業者も呼ばれるのだ。

私の働いていた会社はその指定業者になっていたので、営業部員はかなり多忙だった。
販売会があると土日がつぶれ、さらにマンションの場合は着工日、完成日、引き渡し日が決まっていた。
そのため、受注会で受注が決まると、引き渡し日前の数日前に工事日が指定され、業者はその日に集中して工事をしなければならなかった。
以前マンションは大型物件が多かったので、発注が100戸数以上になると、その物件ごとに工事の材料の発注と、工事の手配をしなければならない。
男子営業部員は徹夜になったり、女子営業部員は朝9時に出社して終電で帰り、さらに土日も出勤という日が続き、残業時間が月に100時間以上になる場合もあった。

女子の営業部員は勤続10年になる30歳のチーフと、内装関係の専門学校を卒業して新卒で入社した二十歳の女性が二人だった。
二十歳の女子営業部員は、月に100時間を超える残業でも、月額15、6万の給料で、ボーナス込みでも年収300万には満たなかった。
社長は残業代を払えないのを内心では心苦しく思っていたのか、出先から夕方帰ってくると、よく社員に残業の夜食としてお弁当やスィーツを買ってきた。
社長はおいしいものをよく知っていたので、どれもデパートや有名なお店のおいしい食べ物だった。
それで若い女性の機嫌を取っていて、最初はそれが新卒の若い女性は喜んでいた。

30歳のチーフの女性はその後結婚し、妊娠を期に退職した。
二十歳だった女子社員は、2、3年後には、土日出勤が不満だったこと、さらにその代休でさえなかなか取れなかったこと、そして労働時間に対して給与が低すぎることなど、待遇に強い不満があって辞めてしまった。

男子営業部員は3人いたが、結局一人を除いて私が辞める少し前に辞めてしまった。

ブラック企業は、経営者が人を人と思っていないこと、また体質が古く社会や世の中の流れについていけない会社が多い、と確かネットで読んだ気がする。

私がいた会社のように、経営者は決してそうは思ってはいなかったが、仕事の段取りが悪かったので、ミスやロスが多かった。
だから残業が異常に多かったのだ。
そして、売上がいくらあっても、仕入れや経費が掛かりすぎていたので、経営的には苦しく、給与はよくなかった。
特に女性社員は低かった。

小さい会社の経営者は長時間残業をしていたり、休まず働く社員がいいと思っている。
しかし、なぜそんなに残業をしなければならないのか、経営者はわかっていないのだろうか。
そして、長時間労働する社員が本当に優秀な社員とは限らない。

仕事のやり方を変えないと残業は減らない。
営業部員はそれはわかっていた。
だからたまに営業部員だけで話し合いをしていた。
しかし、もう辞めてしまった男子営業部員の一番上の責任者が、話し合いで顔を真っ赤にして自分の意見を滔々と話していた。
営業の管理職でありながら、人の意見を聞くことができない人で、さらに辞めるまでパソコンができなかった。

私は無能な事務員で、皆が残業しているのを横目に定時で帰り、会社帰りにパソコン教室に通っていた。
一人会社では浮いていて、たぶんみんなから嫌われていただろう。
今思えば私はまったく嫌な奴だった。

この次長に何回かパソコンの操作を教えたが、なんだかんだ屁理屈をこね、結局できなかった。
次長は内心ではバカにしている、嫌いな私からパソコンを教えてもらうのが、プライドが許さなかったのかもしれない。
しかし、何事も斜に構えて、なりふり構わず一生懸命に努力するのがかっこ悪いと思っていたのだろうか。

ブラックな会社に入社した社員は気の毒だが、経営者ばかりが悪いわけではなく、そういうぬるい環境に順応して働いている社員がいるのでたちが悪いのだ。
ただ単に、厚労省長時間労働の職場に是正勧告をしても、それで状況がよくなるわけではない。

短時間で効率よく仕事をやる方法を、経営者と労働者が真剣に話合わないと、長時間労働は改善されない。
今までの考え方ややり方に固執したり、新しいやり方や仕事の仕方ができない人たち。
ブラック企業を支えている人たちは、実はそういう人たちがいる会社で、そしてそういう会社は淘汰される世の中になっている。