非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

清掃の仕事

新しいバイトは、自宅から徒歩15分ぐらいの駅前にあるオフィスビルの清掃の仕事である。
建物は地下1階から4階の旧館と、6階の新館である。
旧館と新館は、1階に連絡口があってつながっている。
新館は1階がテナントで、2階がオフィスとなり、3階から6階までがマンションになっている。
朝7時から11時まで、月曜から金曜日までが出勤で、土日祭日が休みだ。

掃除は私以外に主婦のおばちゃんが二人いて、それぞれの担当場所が決まっている。

一人はカドハラさん、という小柄でおかっぱの可愛らしい顔をした女性である。
声高のやさしい声で話すが、気に入らないことや相手を非難する時は、キンキンとカドのたった声になる。

もう一人のトリイさんは、私が来た時は御主人が亡くなったとかで、しばらく来なかった。
この人も声が高く、女性的な少しかすれたような声で話す。

私は自分が結婚していないせいか、主婦が苦手だ。
主婦の方たち、ごめんなさい。

そして、このおばちゃん2人がうざい。
いろいろ説明してくれるのはいいが、話が長くてくどくて、さらに何が言いたいのかよくわからない。
質問をしても、質問の答えが出てくるまでが長く、どうでもいい話を延々として、やっと数10分後に結論にたどり着く。

話をしていて、いい加減面倒になったので、テキトーに相槌を打っていたら、とうとう相手がキレて怒りだした。
何度も同じことを注意しているのに、あなたは人の話を聞いていないとか、人の話も右の耳から左の耳に全部抜けてしまうんじゃないかとか、そのうち、カドハラさんも来て、同じようなこと二人して言う。
キンキン声とかすれた声だ。

メンドくさいと思ったが、いい加減な受け答えをした私も悪かったので、とりあえず謝ってその場をおさめた。

感情的にずっとこのままこじれた状態では困るし、教えてもらってない仕事の段取りについても確認したかったので、とりあえず雇用先の40前後と思われる課長を呼んで、話し合いをすることにした。

案の定、トリイさんの話は散らかって、どうでもいいことを延々としゃべる。
感情的になって、時に涙ぐんでいるのではないかとさえ見える。
メンドクサイことこの上ないが、とにかく3人で話をするより第三者が入って話し合った方がいいだろう。
それでこの二人の気がすめばいいのだ。

私の前任者は70代の男性で、時間は私と同じ7時から11時までのはずだった。
しかし実際は、朝6時半頃来て、10時前に帰ったり、7時に来て10時半に帰ったりしたらしい。
要するに、契約時間の4時間労働はせず、せいぜい3時間半か3時間しか働いていなかった。
最後は体調を崩し、すい臓がんらしい、ということになり、ちゃんとした引継ぎもせずに急に辞めてしまった。
とにかく偏屈な人で、マイペースに自分の都合で仕事をしていたし、おばちゃんたちが勝手に何かやるとものすごい勢いで怒りだしたりしたそうだ。
さらに、自分のテリトリーが決まっていたのか、そのテリトリーに何かモノを置くと、気に入らないので勝手に捨ててしまう。
この人の仕事を引き継いだが、きっとあんまりきれいに掃除などしなかっただろう。
人にもよるが、だいたい男の人は、主婦の女の人より掃除の仕方は雑である。
男の人は普段は掃除などやらないが、高齢でも仕事があるのは清掃の仕事ぐらいなので、高齢の男の人がよく清掃の仕事をしている。

いままでその男の人の仕事ぶりに不満があっても口をはさめなかったので、新しく来た私にあれこれ指示したかったのだろう。

話し合いはしたのだか、ちょっとハラタダしかったので、ついついその後に課長に電話し、
「まったく困ったもんですよね、あの人たちは。」
と愚痴ってしまった。
課長は課長で、
「まあ、何とかうまくやってくださいよ。」
と電話口で苦笑まじりで言っていた。

前のスポーツジムの掃除のバイトでも、いろんなバイトの人がいた。
とにかく問題を起こす人が多かったのだ。

主婦の女の人は真面目な人が多いので、自分の仕事はとりあえずきちんとやる。
しかしその一方で、面倒なことは人に指示し、口は出すが手は出さない。
ちゃっかりしていて、自分のことしか考えない、というパートの主婦の人がどの職場にも一人は必ずいる。
そしてこういう主婦は必ずつるんでいて、二人か何人かのグループを組んでいる。
だいたい私は団体行動が苦手なので、こういうグループが嫌いだ。

だから私は主婦が苦手だ、というのはなんだか独断的な言い方だろうか。
もちろん、きちんとした主婦の方もたくさんいるが、末端労働者、と言っていいのかわからないが、底辺の職場というのはこういう人が多いのも事実である。

一方、日常的にサボるのはだいたい男だった。

仕事をしてないのに、やった、と言ってバレて激怒され、違うスポーツジムに移動になった役者志望の男の人。

トリプルワークのサラリーマンで、毎週日曜の朝6時からの清掃の仕事を2度バックレてクビになった人。

非正規のダブルワークの貧困女子や10代のシングルマザーもいた。

その他にも何度も同じ説明をしても覚えられない人とか、人とまともにコミュニケ―ションが取れない人もいた。
掃除のバイトは下を向いて黙々と仕事をしていればいい、と思う人が多い。
だから、募集に応募してきた女の人の中には、掃除の志望動機は「人と話をしなくてすむから」という人が結構いた。

職場では明るく振舞っていたが、帰りの電車の中ではまったく様子が違っていた20代の男の子もいた。
話を聞くと、スーパーで働いていたが、パワハラにあい、うつとまではいかないが、精神を病んでしまった。
働こうと思った時、掃除は人と話をしなくていいだろうと思って応募したそうだ。
しかし、営業時間中のジムの清掃は、結構いろんな人から話しかけられることが多い。
結局2年近く働いて、夏の終わりに辞めてしまった。

「掃除のバイトは結局こんなんばっかだから」
とスポーツジムの社長はよく苦笑まじりに言っていた。

新しい職場のトリイさんは、
「私たちはプロなんだから、プライドを持って。」
と言っていたが、私はトリイさんの仕事はとてもプロの仕事とは思えない。
これは主婦の掃除の延長線上にある仕事のやり方である。
私は清掃のプロではないし、別にプロになりたいとも思わない。
アルバイトだと思って割り切って働いている。
私は30年以上清掃の仕事をしてきているおばちゃんを知っているが、その人は清掃のプロだと思う。
ハウスの仕事も駅構内の現場をマシンを使って掃除をしてきたこともあり、いろんな現場を経験してきている。

たいていの人は掃除は早くやるのがいいと思っているが、早くやるのではなく、丁寧にやるのがいいのだ。
そのおばちゃんは、
「私は時間がかかるよ。
全部きれいにするからね。」
と言っていた。
この人は、自分が非正規だから、とか、バイトだから、とは思っていないだろう。
自分の仕事にプライドを持っているのだ。

少し前になるが、NHKのプロフェッショナル、という番組で、中国残留孤児の二世の女の人で、空港の清掃の責任者の仕事ぶりについて紹介されていた。
まわりの人にこの話をすると、結構見た人が多かったから、見た人もいるだろうか。
見えないところでも、自分の納得いくまできちんと丁寧に掃除をしていた。
この女の人の仕事は、やはりプロフェッショナルである。

掃除のバイトは、こんなことを言うと、プライドを持って掃除をしている方には失礼だが、一般的には底辺の仕事の部類に入る。
しかし、どんな仕事でもプライドを持って仕事をすることは大事なことだと思う。

そして、非正規だから、正社員になれないから、ということが本当は大事なのではない。
一つの仕事を続けていき、、自分の納得のいく仕事をしようと努力をし、それによって人格が磨かれていく、それが本当は大事なのだ。
そして、今はそういう仕事を見つけることや仕事にプライドを持って仕事をする機会が失われていったように思う。

若年層の雇用は増えているとはいえ、今の若い人たちはその入り口のところですでにつまづいてしまう人が多い。
さまざまな理由でどんどん職を変えていくか、不本意非正規労働者になる場合が多い。
今の職場環境を見ていると、非正規労働で、とてもプライドを持って仕事をすることはできない。
労働派遣法改悪で、派遣労働者は消費税のかからない仕入勘定になり、モノ扱いである。
うつやパワハラで辞めていく人が多いのは、労働の現場が荒れているからだろうか。
それとも耐性がないからなのか。

スポーツジムの清掃の仕事は4年近くやっていたので、ジムのスタッフの人たちとは顔なじみになった。
人によってはねぎらいの言葉や感謝の言葉、コミュニケーションを取ろうとする人もいて、そういう人は支配人になったり本部に行って、出世した人が多かった。
一方、何回も会っていても、まるで何もなかったかのように、何の反応もしない人たちもいて、そういう人たちは偉くなった人はいなかったように思う。