非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

清掃の現場・その後

サキタさんは結局、シルバー人材センターから連絡が来て、1000円で今の現場をやってほしいと言われたが、足が痛いので断り、11月末でやめていった。

そのあと、新井さんという60代前半の主婦の女性が来た。
小柄だが横に広く、本当にどこでもいるようなごく普通の主婦である。
早朝の清掃と、夕方午後4時から8時までの清掃と、ダブルワークである。
早朝は、今の現場の前に10年ほど他の現場で働いてきたが、ビルが解体されるため、この現場に移ってきたのだ。
夕方の現場はもう5年も働いているという。

新井さんはサキタさんの後任なので、同じように掃除機掛けやゴミ出しなどをするが、サキタさんより仕事は早いがやはり時間ギリギリまでかかる。
仕事はあまり早くないが、女の人なので真面目に働く。
同じ仕事をしていても、塩田さんはもっと早くテキパキ働く。
塩田さんも新井さんと同じぐらいの年代に思われ、背丈は同じぐらいだが華奢だからなのか、もっと身軽に動いて掃除機掛けも手早い。
塩田さんは日本を代表するような一流ホテルの客室清掃員を長く勤め、その後今の清掃会社の契約社員になった。
代務員という身分で、清掃の現場で急に休みになった人たちの現場に行って清掃をしたり、営業が新しく取って来た現場に行って清掃の段取りや道具の確認をしたりする。
さらに新しい現場の教育係になり、いろいろ指導を行う。
塩田さんを見ていると、清掃の仕事がこの人にとって天職なのだろうと思わずにはいられない。

新井さんは10年以上清掃の仕事をしていても、見ていると仕事がもたもたした感じだが、塩田さんの仕事ぶりは段取りとか身のこなしに無駄がない。
新井さんのように、結局10年同じ現場の仕事をしていても、掃除のパートのおばちゃんでしかないのと、塩田さんの違いは何なのだろうか。
塩田さんのように一つの仕事をずっと続けることによって、仕事の動作が身体に染み付き、身体に型ができている、というのだろうか。
この型、というのは、たとえばこの道何十年といわれる職人と言われる人たちや伝統芸能とか、あるいは日本古くからある華道や茶道などの道にも通じることなのか。
新井さんはパートでただ言われていることだけをやってきたが、塩田さんは客室清掃員として責任やプライドを持ってずっと仕事をしてきた人の違いだろうか。
塩田さんの年代ならば、そのホテルの正社員だったのではないかと思う。
その差が、型ができるか出来ないかの差なのか。
今はそんなふうに一つの仕事を続けて仕事をする若い人たちが減っている。

もう一つの清掃の現場のテナントビルで、20代前半の腰パンで仕事をしていた正社員の若者は、数ヶ月でやめてしまった。
入ってしばらくたつとだんだん休みがちになり、その後本社の営業部長が呼び出して何回か話をしたようだが、最後に話をした後に自宅に帰ると、「やめさせてほしい」と親が会社に電話を掛けてきたという。
塩田さんはその話をしながら、「いい子だったのに、仕事は続けなくちゃね。」と言っていた。
仕事を続ける、というのが塩田さんの職業観なのだろう。

今の清掃の現場は、月に1度定期清掃を行っていて、共用部分の床や階段、エレベーター回りなどの清掃をするが、その清掃員がどう見ても清掃の仕事を専門にしている人たちに見えない。
1人は30前後で、腰パンで作業ズボンの足元がズルズルしている。
もう一人は40代の中年の男の人だが、この人も仕事の手順や作業道具の使い方を見ていて、とても専門の清掃員という感じがしない。
仕事の仕上がりも、あまりきれいになっていない。
定期清掃の時に担当営業が来て、いろいろ説明していたのを見ると、アルバイトなのかもしれない。

今はどんな現場も上の責任者は正社員でも、下の人間は非正規労働者である。
非正規労働者なので、長くその職場にいて仕事を覚える、ということはない。
居心地が良かったり、時給が高かったり、その人がその現場で働くメリットがあれば続くが、雇用主の都合だったり、本人の都合で簡単に辞めてしまう。
だから仕事が身につかないし、いろんな職場を転々とするようになってしまう。
企業はこれ以上正社員を増やしたくなかったり、雇用の調整弁として派遣や非正規労働者を雇っているので、非正規や派遣で働き続けている人たちは、割り切って働いている。
派遣法が改正され、3年以上同じ職場で働く場合はその職場で正社員にさせなければならないので、雇用期間を最初から3年、と決めている職場も多い。
だから、言われたことだけをする、必要以上のことをしない、仕事を覚えない、あるいは努力しない、無駄な労力をかけない、というところにつながっていく。
非正規労働者が増え、そういう現場ばかりになると、一体日本はどういう国になっていくだろう。

私のような末端の非正規労働者から見ても、労働の現場はどんどんひどくなっている。
安い賃金で非正規労働者を使い捨てにするような働かせをさせているので、一つの仕事を続ける、という気持ちは全くないし、自分の仕事にプライドも持てない。
日々の生活に追われているので、キャリアプランニングをすることが出来ない。
雇用の流動化、というが、非正規労働者や若年層の労働者は雇用はすでに流動化している。
末端労働者の現場では人が定着しないし、すでに雇用は破壊されている。

今日本はものすごい勢いで衰退している。
それにみんな気がついているんだろうか。