非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

ハケンの品格

中園ミホ脚本の2007年フジテレビ制作の篠原涼子主演の「ハケンの品格」を見た。
派遣も非正規労働者である。
主役の篠原涼子が高いスキルと多くの資格を持ち、常に3ヵ月で契約終了し、98の会社を渡り歩くという時給3000円のスーパー派遣社員を設定したことにより、派遣社員が常に抱えている不安、不満、葛藤を見事に問題提示している。
俗にいうハケンというのは、派遣会社に派遣社員として登録し、紹介された企業に派遣され、契約内容に従って働く派遣社員のことである。
契約した企業は派遣の賃金は派遣会社に支払われ、派遣社員の賃金は派遣会社から支払われる。派遣社員の雇用関係は派遣会社であって、派遣先の企業ではない。
多くの企業が正社員を減らし、その代わりに正社員の仕事を派遣にさせるようになった。
企業は一人の正社員を雇うより、多くの派遣社員を雇った方が安上がりなのである。
しかし、今の派遣法では、3年を超えて働く場合は正社員にしなければならないが、3年を超える直前で再契約しないケースもある。俗にいう雇い止めである。
このドラマの最初のナレーションでも「今やどこの企業でも派遣社員がいなければ、会社は成り立たなくなって」いるのである。
契約期間終了で職場を転々することにもなるし、たとえ契約途中であっても、「社風が合わない」と言われて派遣先の企業から契約を打ち切られる場合もある。
派遣は常に失業するストレスを抱えている。
だから派遣は自分でスキルを身につけて、自分で自分を守っていかなければならない。
即戦力にならなければいけないが、だからといってそこでキャリアを積むわけでもなく、査定もないし昇給もなく、ボーナスもなく、退職金もない。
同じ職場で働きながら、自分はその職場の社員ではないということが、こんなに強いストレスを与えるということは、非正規労働者にならないとわからないのではないか。
仕事をしていてもあらゆるところで常に自分は差別されている、と感じていた。
その不快さというのは人によって違うのだろうが、少なくとも私はそういう働き方がどうしても馴染まなかった。
差別する側とされる側、それは正規社員と非正規社員の立場を表しているが、差別する側は、される側の気持ちに気がつかない。
正規社員の人たちに悪意はないが、時として鈍感であり、無神経だと思うことも少なくなかった。
これらの背景を、脚本家中園ミホは丹念に取材し、派遣社員35歳定年説、派遣がトイレに立てこもって泣きだす原因は「社員のいじめ」と「正社員との色恋沙汰」、「仕事は正社員並みかそれ以上を期待され、さらに雑用もこなさなければならない」と、派遣社員のホンネをドラマのあらゆるところでちりばめて紹介される。
篠原涼子はなぜ派遣社員として生きていこうとしたのだろうか。
派遣同士群れることなく、残業はせず、3ヵ月で職場を去ることにしたのか。
彼女の高いスキルは、彼女の働くことに対する高いプライドを表している。
篠原涼子は新人派遣社員加藤あいに、「働くことは生きること」と最後に花向けの言葉として贈る。
本人がどのような働き方をしたいのか、それは人それぞれだろうが、今は望む働き方ができない世の中になってしまった。
ハケンの品格が放送された当時より、世の中はもっとどんどん悪くなっている。
バブルがはじけ、リーマンショックがあり、これが底だと思っていたら、底の下にさらに底があったのだ。
そして、その底の下の底にはまだまださらに底があるのだろうか。