非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

わたしたちは日本という国で、家族という陸の孤島の中で生きている。

是枝監督の「誰も知らない」を見て、book offで買ったポプラ社の「ワーキングプア 日本を蝕む病」NHKスペシャルワーキングプア』取材班・編の古本を読み、さらに渋谷ユーロスペース小林政広監督の「日本の悲劇」を見るというのはでき過ぎだろうか。
是枝監督の「誰もしらない」は、ご存じの方も多いと思うが、1988年に実際にあった「巣鴨子供置き去り事件」をもとにつくられている。
この事件は、母親が父親の違う子供4人を産み、戸籍を届けることなく育て、アパートに住まわせながら、他の男との生活のために子供を捨ててしまう。
残された子供たちは母親不在の中を4人で生活する。
長男が子供たちの生活の面倒をみるが、子供たちの家は不良少年たちのたまり場になり、一番下の女の子は少年たちの暴行に会い、死亡してしまう。
何とも痛ましい事件で、新聞や週刊誌、テレビなど、多くの報道機関が報じ、大きな注目を与えた事件だった。
この事件をもとに是枝監督が15年の歳月を経て、映画化されたものである。
物語は子供たちの日常の様子に1年をかけて撮影したという。
それぞれの子供たちの自然で無垢な表情やまなざしに心打たれる。
是枝監督の切り取った東京の姿は、深夜のコンビニ、何げない商店街のたたずまい、モノレールから見える風景、羽田空港の爆音。
そこにはGDP世界第三位の経済大国の豊かな日本がある。
しかし、この豊かな日本で、親の育児放棄と虐待で傷つき、非行や衰弱死していく子供たちが後を絶たないのが実情なのだ。
一方、「日本の悲劇」は、余命3ヵ月を宣告された父親のもとに会社をリストラされ、精神を病み、妻子と別れた40代の息子が帰ってくる物語である。
父親は仲代達也、息子は北村一輝が演じている。
余命3ヵ月の末期癌患者の仲代達也の顔は、全く覇気のない、生きる望みと希望を失った老人の顔になっている。
父は子供のこれからのことを想い、癌の延命治療をせずに自宅の一室に閉じこもり、これからは食事も水もいらない、このまま死なせてくれという。
そして、「お前の就職先が決まったら、部屋を開けろ」という。
父親は職を失った息子のために、自分が死んでも生活の当てができるまでは自分の年金でなんとか生きろ、と言いたいのだ。
余命3ヵ月しかない父親が息子にしてやれること、それは緩やかな自死でしかない。
息子はそんな父親を最初は説得しようとし、怒りやいらだちをぶつける。
息子は、時に父親に甘えながら、深く傷つき、絶望しているのだ。
これは人ごとではない。今の日本のどこかで起こっていること、または起こる可能性が大きいのだ。
監督は、映画の四角いフレームのなかで、きっちり見えることだけを画面に切り取って私たちに見せる。
閉められた部屋の廊下で息子が話しかけるが、そのあと息子は外に出て、洗濯物を洗濯機に入れ、蛇口をひねり、洗濯をする。
しかし、洗濯をする息子が映ることはなく、立てこもった部屋と廊下がずっと映しだされる。
息子の足音、洗濯物を入れる音、水道の音、洗濯機を回す音で、洗濯をしている、ということがわかる。
まるで芝居のようだな、と私は思った。
今の映画は親切で、なんでも説明してくれる。
この二つの映画に共通しているのは、日本はこんなに豊かになったのに、実は家族という陸の孤島に住んでいる、ということだった。
そして、その陸の孤島から抜け落ちてしまった人たちに、手を差し伸べるすべを私たちはまだ知らないのだ。