非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

非正規労働者の憂鬱

前の職場の友人と、都内でも有名なピザ屋に年末に食事に行った。
メニューは2種類しかなく、ピザの生地が売り切れると閉店になる。
午前のランチということで、自分一人では絶対に並ぶことはないが、開店前に並んでそのお店で食事をした。
ピザはたしかにおいしかった。
ピザの生地が薄く、具材も2種類ぐらいしかのっていない。
チーズがおいしいのか、程よい塩味で、胃に全然もたれない。
友人は独身で、私と同じ非正規労働者だった。
東京に一人で住んでいるので、生活が苦しいことはよく知っている。
「工夫すれば何とか生活できる」と言っていたが、生活はカツカツで、預金などとてもできないだろう。
おいしいから今度は夜も来てみたいと言う彼女の言葉に、私は何も言わなかった。
年始年末は休みが多く、収入も少なくなるはずで、さらに夜はランチの何倍もかかる。
普段でも、外食はほとんどできないはずである。
前の職場は、今年の4月には今の組織そのものの体制が変わるので、もしかしたら非正規職員の待遇も近い将来変わるかもしれないと私が言った。
すると、彼女は「えっー、そんなの知らない。」と言う。
それは大きい扱いではなくても新聞やネットでも書かれていたし、職場の通達にも載っていたように記憶している。
通達は、各自のパソコンにメールで送られてくる。
職場にはいろんな職階の人がいるので、各自のIDとパスワードでログインする。それぞれの身分に応じて、通達が送られてくるのである。
彼女は通達も「そんなの意味ないもん」と言って、ほとんど読まないらしい。
友達からもらったパソコンも使っていないし、タブレットを買いたいけど、使いこなせるか分からないから欲しいけど買っていないと言う。
新聞も本も読まず、ネットも見ないので、情報源はテレビだけである。
彼女につい口が滑って、非正規職員でも実はボーナスをもらっている人がいると言ってしまった。
私と彼女は違う課ではあったが、広い同じフロアの端と端で仕事をしていた。
私の席の近くに出力するコピー機があり、各自必要に応じて出力している。
IDとパスワードで上層部はだれがいつどこにアクセスしたか把握でき、アクセスしてはいけない情報を故意にアクセスした人が年に数人はいて、懲戒解雇になったことも通達で回ってきていた。
コピー機から出力された印刷物は、出力した本人がコピー機に行って持ち帰ることになっているが、そのままトレイに出しっぱなしにしてあることがよくあった。
そうした印刷物は段ボールに入れられ、就業時間後にまとめてシュレッダーで裁断されることになっていた。
いろいろな申請用紙には個人情報などが記載されていることが多かったからだ。
見てはいけないような機密文書がそこらに散乱していたが、みんなそんなことには頓着せず、この職場は情報がダダ漏れだった。
大体、幹部職会議の議題や内容を、なぜか非正規職員の私でさえ、人づてに聞いていたのである。
もっとも、本当の組織内部の機密事項はわからなかっただろうが。
彼女の上司は庶務、総務関係の課長も兼ねていて、私の近くの席のコピー機からプリントアウトしていた。
この課長はプリントアウトした書類を、無防備にコピー機のトレイに出しっぱなしにしていることが多かった。
そして、私は見てしまったんである。
この課長が、異動になった前任者の課長宛てに、非正規職員数人に年末の賞与についての問い合わせをしているメールを。
それをつい口が滑って、彼女に言ってしまった。
彼女の反応はごく普通で、人数から誰と誰なのか、ふと話題にはのぼったが、それでその話は終わったものと思っていた。
ところが年が明け、仕事初めの後にメールが来た。
この前の賞与の件を数名に問いかけましたが、この話は本当でしょうか、さらには事実ならば、回覧があるはずで、支給基準を参考に読んでみる、というのだった。
自分と同じだったと思っていた人たちが、わずかな差であっても差をつけられている、と言うことに平静ではいられなかったのだろうか。
1年雇用の非正規職員の待遇は一律で、日給も社会保険の加入も交通費の支給などもすべて同じである。
もし賞与を払っていたとすれば、前任者の課長が他の費用項目で、限られた人たちにだけ支給するようにしたのだろう。
数人と目される非正規職員は、長期に働き、一つの仕事に精通していたり、優秀である人たちで、さらに年齢も高齢な人たちではないかと私は思っている。
そして、賞与を支給された人たちは、彼女の課の職員である。
そう考えると、彼女としてはやはり面白くない。
それで、仕事始めに他の課の非正規職員に聞いてみたのだ。
一般に、差別に敏感な人は、地位や身分が低く、恵まれていない人たちである。
嫌な言い方だが、妬み、僻み、嫉み、などと言われたりする。
私はずっと正規社員だったので、非正規社員になって初めて、こういう差別的な待遇と言うものを知ったように思う。
さらにこの職場は組織が大きく、特殊な職場だったこともある。
この職場の人たちは皆いい人たちだったが、私はこのぬるくてゆるい、均一で同質な人たちが、小さいことで格付けしあったり、人のことをあれこれ噂しあったりすることが嫌だった。
人の悪口や噂話は、言っていて楽しい。
辞めてからもこうして親しい人たちと食事をしたり、Lineやメールをしたりすることもある。
私にとって、あの職場はもう辞めた職場で、同じ非正規職員が賞与をもらおうが、上司がうつ病で異動になろうが、それはもう他人事である。
しかし、その職場に残っている人たちにとっては、自分の身に降りかかってくる切実な問題である。
新年早々、「あ〜あ、やっちゃったな」と後悔してももう遅い。
こちらから連絡をする勇気はないが、その後彼女からも連絡はない。