非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

段ボールハウス −引きこもりー

杉山春氏の「ルポ 虐待 大阪二児置き去り死事件」は、雑誌や新聞の書評欄に多く取り上げられ、かなり反響があった。

その杉山春氏の新刊『家族幻想 −「ひきこもり」から問う』は、初出は雑誌の記事がベースになっているらしい。
書籍化にあたり、当時取材した人たちを再度取材している。
何人かの引きこもりの人を取材したノンフィクションで、さらに杉山氏の子供が不登校になったことや杉山氏の生い立ちなども書かれている。

そのせいか、全体に散漫な印象を受ける。

杉山氏は、自分の息子が不登校になった時、以前取材で知り合った児童精神科医を夫と二人で訪ねている。
その精神科医にが診察にあたり、子供と面談し、さらに学校を見学したり、担任の先生と面談をしている。

あくまでも子供の意思と自主性を尊重し、なるべく子供の希望を叶えるように大人たちが心を配った。

学校に行けないときは無理していくことはさせず、希望すれば教室の中でテントで過ごし、授業をテントの中で受けるようになった。
学校の先生やクラスメイトとも連絡を取るようにして、クラスの中に居場所ができるように工夫した。
精神科医の先生を子供は心のよりどころとし、自分の気持ちを分かってくれる大人だと感じるようになった。

そして、中学を迎えるころ、不登校は治り、普通の学校生活を送れるようになった。

杉山春氏はしっかりした賢いお母さんだ。

印象的なのは、自分の人生と子供の人生は別だ、と気が付いた、と書かれているところだ。

引きこもりは、年齢や引きこもり歴によって、症状が異なる。
重症になると、子供がえりをして、成人になってもおむつをするようになるケースもあるという。

自宅付近には引きこもり本人や、引きこもりの子供を持つ母親、そしてご近所の噂などで、引きこもりは4人はいる。

この4人て、多くないですか?

引きこもり本人は、深夜のコンビニにこっそりと現れる。
その姿を見ていると、自分で作った段ボールを頭からすっぽりかぶって、目のところだけあいているような感じだ。

自宅に帰っても、家族のいるところではその段ボールをかぶり、自室に戻り、自分一人になったときに、やっとその段ボールを外すのだ。

ちょっと残酷な言い方をすれば、まるでそれは段ボールハウスのようだと思っている。

つい最近、ずっとツン読になっていた、安倍公房の「箱男」という小説を読んだ。
この「箱男」は引きこもりそのものではないか。

辞めたバイト先のKさんのお嬢さんも引きこもりである。
最近Kさんに会うと、相変わらず娘や夫のことを延々と話す。

親しい友人にはしゃべれない家族の秘密は、さして親しくない、以前バイトですれ違っただけの私には気楽に話ができるんだろう。

娘がやっと就職試験を受けに行く朝に、彼女が飼っている柴犬に噛まれたという。
すると、その娘は
「お母さんは、私が就職試験の面談に行く大切な日に、なんで犬になんて噛まれるのよ。」と言ったという。
彼女は、
「犬に手を噛まれて血を流しているのに、なんて言い方なの。
少しは大丈夫?とか、そういうことは言えないの?」
と怒ったという。
娘は、面接の結果、採用が決まったというが、
「お母さんがそんなふうじゃ、とても就職なんて、できやしないわ。」
と言って、その場で就職を断ってきたそうだ。
母親は、
「あの娘は本当は、就職なんてする気がないのよ。
社会に出て働くのが怖いのよ。」
「でも、面接すれば、人当たりがよくて、明るくて、とってもいい子だから、絶対に受かるのよ。」
とも言う。

私は彼女の話を下を向いて聞いている。
私は結婚もしていないし、子供もいないので、余計なことを言ってはいけないと思っている。

一方の友人の息子は、大学を卒業しても1年間好きなことをしたい、と言って就職活動をしなかった。
1年後、やりたいことが見つかったが、その仕事で生活することはとてもむずかしいという。
息子は家を出て行ったが、その仕事をするためにアルバイトをし、アパートの家賃は親が援助しているという。
「え、それって…」
と言葉を濁すと、
彼女は両耳をふさぎながら、
「甘いのはわかっているのよ。」
とそれ以上のことは聞きたくない、というように頭を振った。

二児のシングルマザーで起業し、何人かのスタッフを抱えるほどになった女性を知っているが、彼女が子供を育てる時に参考にした本は、

毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)
スーザン・フォワード (著), 玉置 悟 (翻訳)

という本だと聞いた。

引きこもりの社会復帰のためのNPO法人で、少し手伝ったことがあるが、このNPO法人は、なんだか詐欺のようなNPO法人だった。
そして、このNPO法人は、案外有名で、マスコミなどにも取り上げられたりする。
しかし、私はその実態を知って、???????と思った。
ほかのスタッフから嫌われていたカウンセラーの言っていた言葉が忘れられない。
「女は家事手伝い、ということになっていますが、引きこもりは男も女も関係ないんですよ。」と言う。

しかし、引きこもりは男の方が無力感、疎外感、そして負け感は女より強いと思う。

引きこもりの人たちは、自分で自分に線を引き、自分で自分の道を閉ざしてしまう。
「こうでなければ」という気持ちが強い。
それは社会の漠然とした価値観であったり、親の期待であったりする。
男とか女とか、社会の規範とか、そういったものから降りてしまうことができない。

そうだ。
私は中国に留学した時、大学生の男の子から
「中国に留学した時点で、もう人生半分捨ててますね。」
と言われた。
「本当は全部って思ってるでしょう?」というと、
「うん、まあね」と苦笑して言われた。