非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

非婚ですが、それが何か!? 非婚リスク時代を生きる  上野千鶴子 水無田気流

私の知っているある主婦は、一男一女の母親で、元公務員の夫がいる。
30代半ばの息子は、某一流国立大学を卒業し、何回か転職をしたのちうつになり、今は仕事をせず、ひきこもりである。
一方妹の30代の娘は、大学を卒業して、システムエンジニアをしている。
母親である彼女は、「大嫌い、あんな奴」と日中いつも自宅にいる夫のことを罵り、ほとんど家庭内別居というのか、家庭内離婚の状態である。
ほぼ毎日フルタイムで働き、日中は夫と顔を合わせないようにしている。
夫が陰で娘のことを「早く嫁に行け」とか「早く子供を産めと言え」、と言うそうだが、過労死するほど働いている娘に、とてもそんなことは言えないと言う。
彼女の夢は、「早く夫が死んで、遺族年金をもらうこと」だそうだ。

彼女の娘が結婚しようとしないのは、自分の両親を見ていて、たとえ結婚しても結婚生活がバラ色でないことを知っているからだ。
そして、今この会社や仕事を手放したら、もう二度と同じ仕事やポジションを得ることができないことを知っているのだ。

安倍首相が掲げる1億総活躍会議は、出産率を1.8に上げることを目標にしていた。
しかし、結婚したいと思っている男女はそんなに減っていないが、実際の婚姻率は上がっていない。

日本の出生率はイコール婚姻率に基づいている。
婚外子は長い間、差別と偏見の目でみられていた。
そして、その非婚率がなかなか下がらない。
それはなぜだろうか。
この本は、団塊世代のおひとり様の上野千鶴子氏と、団塊ジュニア世代の腐女子引きこもり系の「まちがって母」になった一児の母の水無田気流氏による非婚をめぐる対談集である。

ともに女性の社会学者、この二人が自分の経験や「マクロデータをつきあわせて」「個人と時代の変化」について論じている。

データからひろってみると、18歳から33歳の未婚男女を対象に、「いずれ結婚するつもり」「一生結婚するつもりはない」「不詳」の3択のアンケート結果を見ると、調査開始の1982年と2010年の調査結果では90%前後の男女はいずれ結婚したい、と答えており、あまり変わっていない。
しかし一方「一生結婚するつもりはない」は、2010年に男10.4%、女8.0%と、1982年の調査開始と比べると、男は約5倍、女は約2倍に増えている。
男の10%の「結婚するつもりはない」は、どのような階層の人たちなのだろうか。
仮説を立てるとしたら、低所得、非正規労働者が「できない」を「しない」と言い換えているのではないか。
さらに高収入の男性が、家族はコスト、と考え、結婚を忌避している可能性もあるのではないか、この数字の年収や学歴、職業を調べる必要がある。

一方、女性の「一生結婚するつもりはない」は、女性の社会進出が進み、「確信犯的シングル」である。
だから、この「一生結婚するつもりはない」の男と女は非対称である。
以上が、上野千鶴子氏と水無田気流氏の見立てである。

調査を始めた1982年は、ちょうどバブル真っ盛り、このころ適齢期を迎えた人たちの中に「負け犬の遠吠え」を書いた、酒井順子氏がいる。
そして、1990年代社会学者の山田昌弘氏が適齢期になっても実家に寄生している独身男女を「パラサイト・シングル」と命名した。
「なぜ結婚しないか」、それは男女とも結婚はソン、と考えているからだ。
男は結婚することにより、「お金をソン」と考え、女は家事、育児をしなければならず、「時間がソン」と考えた。
従来の社会の男女分業型「男は働き」「女は家事、育児」と考える保守的な考え方は、非婚化しやすい傾向にあると指摘された。

日本の男女がほぼ100%結婚できるようになった時代は、実はそんなに昔のことではない。
江戸時代は、長男しか家の財産を相続できなかったので、次男坊、三男坊は結婚できなかった。
農業、漁業の第一次産業から、第二次産業に産業人口が移動し、工業化が進み、高度経済成長期になった。
田舎の次男坊、三男坊が都会に出てきて就職できるようになり、妻子を養えるだけの収入を得ることができるようになって、やっと結婚できるようになった。
それが1960年代半ばである。
さらに、80年代から格差が広がり、90年代になって、その差が広がった。

上野千鶴子氏と水無気流氏の結論は、ミもフタもないが、「非婚ですが、何か?」ということである。
社会的に非婚者が多くなり、結婚しないことが珍しくなくなった時代、さらに結婚が決してメリットにはならないとわかり、特別恋愛などしない人たちは、結婚に対する動機つけがないので、婚姻率は下がる。
だから、それによって少子高齢化が進んでも仕方がない。
そして、『人口が減って「国民経済の規模が縮小する」のが困ると思っているのは国や財界だけで、それなら「縮小経済に見合ったギアチェンジ」をすればいい。』とさえいう。
上野氏は、非婚が増えて、出生率が下がってもやむなし、との意見。
間違って子供ができてしまったカップルの子供はかわいそうだから、それなら結婚しないほうがまし、子供が生まれないほうがまし、という。

水無田氏は今の非婚時代について、今の社会制度は家族を単位としているが、それを個人単位にすること。
そして子供は親を選べないから、どのような子供にも等しく教育の機会を与えること。
女性は結婚し、子供を産み、家事、育児をする、という従来の家庭観、婚姻間から自由になること。
と結論づけている。

社会や世間が今までの価値観や考え方を押し付けても、実はそういう考え方によって多くの人たちが息苦しく、生きにくい世の中を作ってしまったと思う。
社会の一番小さい単位は家庭であり、その家庭がすでに壊れている。
親による子供の虐待、ネグレスト、そして、引きこもりの問題。
さらに、離婚による子供の貧困。
今の子供たちの考え方は、明らかに昭和の時代の常識で考えることができない。

今の非婚率が下がり、社会が変わるのか、この結論は出されていない。
大多数の人たちの意識は大きく変化はしていない。
しかし、問題なのは意識は変わらなくても社会が変わり、その変化に個人の意識も社会の制度も追いついていないことだ。

この本で一番面白かったところは、水無田氏が紹介した、AVライターだった雨宮まみ氏の「女子をこじらせて」の文庫本の上野千鶴子氏のあとがきの部分だ。
この本を紹介された時、「むむう、これは面白い。」と思い、早速本を買いにいったのだった。