非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

引きこもり

スポーツジムの掃除のバイトをしているが、そのジムが新しいジムをオープンしたので、私は主にその新しいジムの掃除のバイトをしている。
今までのジムも、人手が足りないときはたまに掃除をしに行くんだけど。

社長の愛人は、社長とトラブったのか、
「社長にはいつも頭にくることが多いので、もぉ、手伝いに行きません。」
とメールが来たが、私はなんと返信していいのかわからなかったので、そのままにしていた。

社長の愛人、などと言うと、社長は妻帯者のようだが、独身である。
一方の社長の愛人も、バツイチの二人の子持ちのシングルマザーだ。
社長は40代半ば、社長の愛人は40代前半。

お互い独身だし、そのうえこれは当事者間のことなので、どのような関係でも人のことをとやかく言うべきではないだろう。
社長の愛人、という言い方は悪意のある言い方だと自分でも思う。
そして、あんまりくわしくは書けないが、私は最近この社長の愛人にいい感情を持っていない。
でも、こんな言い方はちょっとひどいので、仮にこの社長の愛人は原田さん、という名前に変えよう。

話は戻って、、原田さんから「Kさんに連絡先を知らせてもいいか」というメールが来た。

Kさんは同じジムの掃除のバイトをしている主婦で、去年の暮れに原田さんと私とKさんとで食事をした仲である。

だからと言ってそんなに親しいわけでもないんだけど。

「いいですよ。」
ととりあえず返信をすると、しばらくたってKさんからメールが来た。

去年の暮れに食事をした時に、私が引きこもりのことを話していたので、話が聞きたい、という。

そんな話をしたのか覚えていないが、引きこもりのための社会復帰支援のNPO法人に手伝いに短期間だが行っていたのを話したのかもしれない。
細かいことは言えないが、そのNPO法人はどうもいかがわしい感じがしたので、1ヵ月ちょっとで辞めてしまった。

私の住んでいるところは、古くからの住宅街なので、住人も古くから住んでいる人が多い。
そういう家で、引きこもりになっている子供のいる家庭が多いのだ。
私の知っているそういう子供たちは、もうすでに成人して30代になっている。
どの家も持ち家なので、経済的には裕福で、表を見るとしゃれた戸建の玄関や塀の外から手入れされた庭が見える。
そんなご近所の人たちから、なんとなくそういう話はよく聞くのだ。
近隣住民とはあいさつ程度でそんなに親しい間柄でもないし、たまに世間話のように引きこもりの子供の話をされても、なるべく当たらずさわらずに受け流すことにしている。

何人か知っていますが、余りくわしくはないのですがいいですか、とメールをすると、それでもかまいません、と返信がきた。


Kさんと都内にある某有名なピザ店で会うことになった。

彼女が自分の娘について話し始める。

うちの娘、仕事が長続きしないんですよ。
今、図書館で本を借りてきて読んでいるんですけど。
これ、引きこもりについての本なんですけど、娘と全くおんなじことが書いてあるんです。
働かないでうちにいるんですけど、やっぱり娘は引きこもりなんですね。

あ、うちの娘、いま28なんです。
前はそんな子じゃなかったんです。
小学校の頃は、クラス全体がすごくいい雰囲気で、その中でも娘は中心的なリーダー役だったんです。
ところが、中学に入ってから、イジメにあったんですね。
何でなのか、どうも娘は小学校の時と同じような態度をとっていたんです。
何かあると、ちょっとすねたようなまねをするんですね。
でも、小学生と中学生は違うじゃないですか。
娘はそれがわからなかったんでしょうね。
それがみんなの反感を買ったみたいなんです。

それでだんだん学校に行かなくなりました。
中学の卒業の時はいじめた子が、「あの時はごめんね。」みたいなことは言ったんですけどね。
でも、中学校のいじめがかなりトラウマになったみたいです。
自分の殻に閉じこもるようになって、親しい友達もできなくなりました。
それでも何とか中学校は卒業して、高校、大学までは出たんです。

娘は美術系の大学を出たんですが、大学を出た時は、どうするのかな、と思ってたんですが、やはり就職はしませんでした。
学校の同級生が留学する、という話を聞いて、娘も留学したい、と言い出しました。
イギリスに行きたい、と言ったので、お金は出してあげたんです。
自発的に何かやる子ではなかったので、1ヵ月だけでしたが、よく行ったな、とは思いました。

その後小さい印刷所に働きに行きました。
美術系の大学ならデザイン事務所とか、広告関係とか、なんか華やかなイメージのところを思い浮かぶかもしれませんが、娘はとてもそんなところで働くことなんてできません。
それは娘も私もよくわかっていました。
小さい印刷所でアルバイトのようなことをしていました。
電話番をしたり、簡単なチラシやパンフレット、時に名刺も作ったりしたみたいです。
「お母さん、これ私がデザインしたの。」と、名刺を見せてもらったこともあります。

そこは1年ちょっとで辞めました。
その後、ちょっと変わったショップで働き始めました。
そのショップは、雑誌にショップや経営者が紹介されるような、有名なお店だったんですけど、その女性の経営者が変わった人でした。
娘はそのショップや経営者とも合わなかったみたいです。
それで体調を崩して辞めました。

えぇ、たぶんうつもあるんじゃないかと思います。
病院でうつの処方を受けたり、一時は眠剤も使ってましたが、今は眠剤はやめてるんですよ。
常習になると怖いと娘も思っているんです。

うち、主人が52の時にうつになって、休職して、しばらくして退職しました。
今は働いていません。
家は自宅で、あともう少ししたら主人の年金も入ります。
主人が会社を辞めてからは、貯金を切り崩しながら、私が働きました。
引きこもりの相談所に行った時も、相談員の方に、
「それで生活できたんですね。」
なんて言われました。

娘の上にもう一人、女の子がいます。
もう結婚しました。
まだ子供はいないんですけど。
娘と上の娘は仲はいいんですが、4つ離れているし、上の娘はあんまり家にいませんでした。

とにかく娘は自分が普通じゃない、ということはわかっているんですね。
で、心の中では人並みになりたい、とは思っているようなんです。
でも、友達はできないし、働けない。
生きていても楽しくないし、自分は生きていても何の価値もないので、早く死にたい、なんて言うこともあるんです。

話は戻りますが、ショップをやめてから、アルバイトはしてるんです。
高校時代からやっていたコンビニのバイトとか、短期の花屋のバイトとか。
花屋は、年末と母の日が忙しいそうですね。
それで、年末にバイトした花屋から母の日の前もまたバイトに来てほしい、と言われたんです。

短期のバイトならがんばれるんです。
でも、普通の正社員では働けないんです。
面倒な人間関係が苦手なのか、会社生活には慣れないし、働いても続かないんです。

本当は頑張れる子なんです。
あの娘、最初はそんな子じゃなかったんです。
え、こんなに、というぐらい、すごい一所懸命やるところもあるんです。

自宅は同じ敷地内に姉夫婦も住んでるし、姉夫婦の方は男二人で、もうすでに結婚して子供もいるんですよ。

私や姉夫婦や従兄弟たちと仲はいいんです。

ただ、娘は夫のことは嫌うんです。
娘のうつは、夫からの遺伝なんでしょうか。
一時娘が夫に、狂言なんですけど、
「こんなになったのは、お父さんのせいだ」なんて言って、
包丁を出したんです。
夫と娘を同じ屋根の下に置いておけないので、夫には近くに部屋を借りてもらって、家を出てもらいました。
ホントなら、娘が出ていくべきなのかもしれません。
今は落ち着いているんですけどね。
またなにがあるかわかりません。

娘は普通に働いて、結婚して、子供を産んで育てたい、という願望があるんですが、それがうまくいかない。
働きたくても長く働けない。
友達がいないし、作れない。
でも、今は夫とも話はできるようになったし、上の娘や姉夫婦や従兄弟たちとは普通に話ができるんですよ。
今日も私が出かける、と言ったら、夜ご飯はちゃんと作ってくれるし、頼めば買い物もできる。

でも、やっぱりこれは引きこもりなんでしょうか。
この本にも書いてあったんですが、
「お母さんは私の気持ちはわからないでしょう。」
というんですよ。

今のままでもいいような気がするんですが、私が死んだら娘はどうなるのか。
娘一人で生きていけるんでしょうか。
私、そう思うと夜も眠れないんです。

それで、引きこもりのこと、この前話していたの、思い出して。
たしかにそういうNPO法人とか、いろいろあるみたいなんで、いくつか行ったこともあるんです。
相談員みたいな人にもお会いして、話しをしたりしました。
でも、全然進まないんですね、先に。
たくさんあるけどどこがいいのか。
私は、娘みたいに自宅にずっといる人たちと知り合いになって、いろいろ話したり、友達を作るのがいいかと思うんですが、娘はそういう人たちと一緒にしないでほしい、とか言うんです。
娘は自分は普通じゃないと言いながら、世の中で言われる引きこもりと自分は違うんだ、と思っているみたいです。
私、最近やっぱり娘は引きこもりだと思うようになりました。
引きこもりなら引きこもりでいいんじゃないかと思います。
だから、どこか、いいところありませんか?
父母の会がいいのか、子供たちが集まるところがいいのか。

普通、女の人は、何か説明する時にこんなに理路整然と説明できる人は少ない。
私もそうだが、大体何か説明しているうちにどんどん話が散らかって、何が何だか分からなくなる、ということが多い。
ところが彼女は感情的になることもなく、よどみなく自分の娘のことを説明する。

このお母さん、理性的で頭がいいんだ。
いや、頭がよすぎるかも。
感情的に声を荒げたりすることもなく、淡々と話を進める。
化粧気がなく、服装も地味であんまりかまわない。
おとなしいが、芯がとても強い。
たぶん強すぎるんじゃないかと思う。
その影響を夫や引きこもりになった娘がもろに受けてしまった。

そんなに人と比べても仕方ない。
自分をそんなに追いつめてはいけない、と娘に言うそうだが、実はそういう考え方は、母親の考え方の刷り込みのように思う。
さいころ、母親が自分で気が付かずに、そういう考え方を子供に押し付けてきたのではないか。

上の娘は、早くから家に寄りつかなくなり、早々に結婚して家を出られたのは、母親の影響をあまり受けなかったからなのかもしれない。

こんな話を聞いても、もちろん私は気の利いたアドバイスを言うことができない。

一戸建ての手入れをされた鉢植えが並ぶ玄関先や庭先からは、豊かで幸せな家を想像させる。
しかし、そんな家でも引きこもりの家族を抱えている家が、今はとても多い。