非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

チャラい男

スポーツジムの掃除のバイトは相変らずやっているが、働く人たちは気が付くとどんどん変わっている。
いろんな人がいたが、掃除のバイトなんて、非正規労働者の中でも最低の仕事なんだろうか。
私はもう若くないので、こんな仕事しかない、と自分で自分を卑下して思っているのかもしれない。

前と比べると、ダブルワークをする人や、若い人が多くなったような気がする。
棟梁と呼ばれていた元大工の棟梁は、車の事故で衝突され、命に別状はなかったが、首のむち打ちと昔やった事故の腰痛がまた出て、さらに加齢が加わったのか、体がシンドクなって辞めてしまった。

後任の男は20代前半で、裏ではイケメンと言われている、スタイルが良くておしゃれな、ひげを生やしたチャライ男だった。
その男は、吉田君といった。
吉田君は夜は焼肉屋でバイトをしている。
来年2月まで働いて、お金を貯めたら田舎に帰って、仕事を探して正社員になって、彼女と結婚をする、というのが彼の計画である。
焼肉屋のバイトは夕方5時から深夜1時まで、さらにジムの掃除のバイトは9時から3時までだ。
バイトは週何日出ているのかわからないが、ジムの掃除のバイトは毎週、月、火、土、日の4日間である。
私のバイトのシフトは土日なので、土日のバイトにかぶるのである。

ジムは金曜が休みなので、平日の月曜から木曜までの中番は、まだ子供が幼稚園に通う30代の主婦の女の人だった。
通常中番は9時から3時までだ。
しかし、平日の中番の女性は、子供の幼稚園の都合で9時半か9時40分ぐらいにならないと来られない。
だから、本来9時からやらなければならない仕事が9時40分までずれ込んでしまう。
仕事は男女別々だが、9時半ぐらいから外掃きの掃除があり、男女ペアで掃除をすることになっている。

吉田君が入ってしばらくすると、私は気が付いてしまった。
普段は9時40分くらいにならないと相方が来ないので、それまでの時間はちゃっかり休憩の時間にしているのだ。
その間、コンビニで買った朝ごはんなどを食べてるらしい。

平日一緒にやっている主婦の女の人とは気が合うのだろうか。
「やることが早いし、要領がよくて気持ちがいい」と手放しでほめていると言う。
私はなんとなく面白くなかった。
朝の40分の用事がずれ込んで、その分帰り時間も40分ずれていたが、なんだかなぁ〜、と思っていた。

先週の日曜の事だったか、吉田君は朝来なかった。
仕方なく社長に電話すると、早番の男の人が少し残ってくれたが、次の仕事がある、ということで、帰って行った。
バイト先の清掃会社は、スポーツジムだけの掃除をやっているわけではない。
他の現場の清掃なども請負っており、早番の男の人は、次の現場の仕事があった。

しばらくして社長がやってきた。
社長は最近煙草をやめたので、急に太ってずんぐりむっくりした。
頭より体を使うのが得意な40代半ばの、寅さんのタコ社長のような男である。
社長が電話をしても、吉田君は電話に出なかった。

つい私は言ってしまった。
「朝は9時30分くらいはサボっているのか、何もしていない。
 トイレの掃除はしない。
 お昼休みは1時間しっかり取って爆睡している。
 要領がよくて、仕事は早いんですが、うまく手をぬいてるんですよ。」と。

社長が、
「そうか、ごめんなさい、しようかな」と言う。

あんまり簡単に言うのでちょっと驚く。

「でも最近トラブルを起こした橋本君はクビじゃなくて、吉田君がクビになるのは、何が違うんですか」
「あいつもいい加減だけど、バイトに来るじゃないか。
とにかバイトにく来るか、来ないかなんだよ。」

もしこれがコンビニならきっとクビだろう。

今のコンビニは結構仕事がキツイ。
サービスが充実している、ということはやることもたくさんあるのだ。
商品の発注もするし、Amazonの受け取りもする。
ちょっとした揚げ物なんかも作る。
さらにコーヒーも売っている。
雑誌は立ち読みできないように紐かけをしなくちゃならない。
いろんなサービスがどんどん増えるから、そういう仕事をこなしていかなくちゃいけない。
昔の子供の店番のようなことではやっていけない。
その上、オーナーにもよるだろうが、シフトも厳しい。
「あ、この日は入れないんなら、もう来なくていいから」
と言われるらしい。
そして、店によってはPOPを書いたりする。
POPを書く人は少し時給が高いんである。
私はコンビニのバイトに落ちたからよく知っている。

結局吉田君は、午後2時ごろにメールが来た。
爆睡していて、起きられなかったらしい。
「どうもすいませんでした。
まだ稼ぎたいんで、よろしくお願いします。」
とメールには書いてあったそうだ。

社長は、新しくきた支配人を「女の腐ったような、細かくてチクチクあれこれ言うアタマの悪い」奴だと言っていた。
そして、そのアタマの悪い、女の腐った奴からチェックを受けたことを思い出した。

それは私が言った吉田君の仕事ぶりとすべて当たっていた。

「どうすっかなぁ〜。」

さっきは
「もうダメだ、あんな男」
と言っていたが、結局日曜のシフトを一日減らしただけだった。
日曜は人が多いので、掃除のバイトをさぼってクレームになると大変だと思ったのだろう。

土日のシフトに入る男の清掃員は、大体ダブルワークのサラリーマンだ。
平日はメインの仕事をし、さらに休みの日も働く。
前々任者は、1年近く働いたが、だんだん体がキツくなって手を抜くようになり、バックレて辞めてしまった。
その次の人もサラリーマンらしかったが、本業が忙しくなったから、と嬉しそうに辞めていった。
どちらも40代半ば、あるいは50代前半で妻子持ちだった。

掃除のバイトなんて、最低限の仕事だから、定着率が悪いのだろうか。
しかし、募集をかければまたお金がかかる。

同じ時期に応募してきた遅番の男は、
「あいつは使える」が、
「ロボットみたいな奴だ」
と言う。
ずっと司法の勉強をしていたが、試験に受からなかったので、断念したそうである。
理解力があり、決められたことはきっちりやるが、
言葉が足らず、人と一緒に仕事をすることはおろか、人とコミュニケーションを取ることができない。

「掃除のバイトなんて、結局こんなんだよ」
と、社長が苦笑した。

社長は人が好くて面倒見がいい、と他の人が言っていた。
たしかに社長は甘いのかもしれない。