功利主義者の読書術 佐藤優 「受肉」という考え方
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/03/28
- メディア: 文庫
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佐藤優氏の経歴は一風変わっている。
同志社大学に入学し、19才でキリスト教に入信、そして同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省に入省。
ロシアの日本国大使館勤務から外務本省国際情報局分析官となる。
しかし、鈴木宗男氏の一連のバッシングから、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕され、東京拘置所に523日間独房で過ごし、執行猶予付き有罪判決を受ける。
これらの経緯から「国家の罠」「自壊する帝国」を出版し、大宅壮一ノンフィクション賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、数々の本がベストセラーとなる。
この「功利主義者の読書術」は、このような経歴を持つ人物からなる読書案内である。
この本は、問題意識を持つ学生に向けて、あるいは「生きる意欲がない」ビジネスパーソンに向けて書かれている。
これらの人々に「功利主義者」と命名したのは、「役に立つ」ということを第一義的に考えたからだという。
「功利主義者の読書術とは、神が人間に何を呼びかけているかを知るための技法なのである。」という。
この本では30冊の本が紹介されている。
私が読んだのは、
「うずまき」 伊藤潤二
「負け犬の遠吠え」 酒井順子
「わが心は石にあらず」 高橋和己
「共同幻想論」 吉本隆明
「カクテル・パーティ」 大城立裕
の5冊だけである。
読もうと思った本は、
「資本論」第1巻 カール・マルクス 向坂逸郎訳
「資本論に学ぶ」 宇野弘蔵
「蟹工船・党生活者」 小林多喜二
「イワン・デニーソヴィッチの一日」 A・ソルジェニーツィン 木村浩訳
の4冊である。
人生は短い。
時間は限られているのだから、
・長すぎて読めない本
・いまさら読んでも仕方のない本
・むずかしくて理解できないと思われる本
・興味のない本
は読まないことにする。
この読書案内で、最後に「新約聖書」をもってきているのは、実はこの本が佐藤優氏が一番の紹介したい本だからである。
最後の章で、佐藤優氏が言っている。
人間は法律や規則を守ることが善であり、救われるわけではない。
人間そのものが罪深き生き物であり、自らの手では救われない。
キリスト教は「絶対的他力にすがることによって救済を求める宗教である」とチェコの神学者フロマートカは気づいた。
キリスト教の「受肉」とは、「人間の最もみじめな最も無能な姿で表され」「人間の最も深い深淵にまで下りてきた」ことである。
そして、この受肉によって、私たち人間は救われる、と佐藤優氏は考える。
最後の章で、佐藤優氏は「功利主義」という発想の背後には、受肉という神学思想が隠れており、実はこれは「功利主義者の読書術」は「受肉の読書術」ということなのだと説く。
私はこの本を読んでよかったと思ったのは、この「受肉」という考え方に出会えたからである。
私は多分(きっと)聖書も読まないし、キリスト教徒にもならないだろう。
しかい、生きていくことが困難だと思えるこの時代に、「受肉」という考え方がある、ということを知っただけで、心が少し軽くなったように思う。
そして、佐藤優氏は、今私たちが生きているこの時代が、もっとも悲惨でみじめな現実であっても、目を背けるのではなく、だからこそこの時代を生き抜くための道しるべとして、この読書案内を書いたのである。