非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

辞めた理由

土曜日に週一で通っているテナントビルの清掃のバイトに、たしか5月頃新入社員が入ったと書いたが、やはり辞めてしまったそうだ。
22歳の青年というより、少年というような男の子だった。
色が白く小柄で痩せていて、作業服を腰パンで履いているので、パンツがズルズルしてだらしがなかった。

いつも顔を下に向いて、スマホをいじっているか、人の話を聞いて一人でニヤニヤしているような子だった。

仕事が一緒になることはあまりなかったが、他の人と気楽に世間話をする、ということはなく、私とはほとんど話をしたことはなかった。
前にスポーツジムの清掃のバイトをしていた時は、引きこもりだったがなんとかバイトを見つけました、とかずっと非正規労働者でいろんな現場を転々としてきました、というような人が多かった。
というより、ダブルワーク以外の人はほとんどそういう人たちで、そして、そういう人は余計なことは言わないが、肝心のことも言えない、という人が多かった。
きちんと人の目を見て話ができない、とか挨拶ができないのは当たり前で、質問をしても返事に時間がかかったり、返事が返ってきても何が言いたいのかわからず、会話にならないことも多かった。
さらに、仕事の段取りを説明したり、仕事を頼んでも、はいはいと返事はいいが、頼んだ仕事をしていなかったり、そのことを指摘しても平気で嘘をついたりごまかしたりすることが多かった。
なんでそういうことができるのか、私には謎だったが、最後はもう相手にするのはやめることにしたのだった。
特に男にはそういう人が多く、そして今頃の人というのはこんなものかと思っていた。

矢代さんという現場責任者の話では、4月に正社員として入社してから休みを何回か繰り返していたらしい
数日出社すると、その後休みが続く。
その連絡も、当日の朝6時ぐらいだったものが、朝7時になり、最後は無断欠勤、ということになったらしい。
何回か注意もされたらしいが、注意された翌日は必ず休む、ということだった。
最後は本社の営業部長が話をして、注意をしたり、続けるように話をして、その場では「わかりました」というようなことを言ったらしいが、その日の夜だったか、翌日に親から辞めさせて欲しいと電話があったという。
辞める時ぐらい自分で電話して言えないのだろうか。
最近、芸能界で有名女優の息子が不祥事を起こし、マスコミでその親の過保護が大きな話題になり、バッシングを受けていたが、本当に今の子供は過保護なんだろう。

矢代さんは、彼の事になると手厳しく、
「何回も休みを繰り返したので、最後は誰からも相手にされなくなり、自分で居場所をなくしたんだよ。」とか、
「プレッシャーに弱いので、仕事が続けられなかった。」とか、
「甘やかされて育ったので、あれじゃどこへ行っても続かない。」
とか言っている。

言っていることは正しいかもしれないが、もうちょっと言い方はあるだろうと思って聞いている。
現場の上司だったんだからもうちょっと面倒を見てやってもいいのではなかったかと思うし、そもそも矢代さんはこの青年には全然注意もしなかった。
矢代さんは私のようなおばさんには注意はできるが、男の人にはバイトの人でも注意できないんである。

矢代さんは長く働いているバイトのおばちゃんやバイトの男の人からもほとんど相手にされていない。
それは人に対する思いやりとか、包容力とか、感謝の気持ちが人の上に立つ人として、全くないからだ。
だから長くいる人達は矢代さんを軽んじるような言動をして、それで矢代さんがキレて、他のバイトに当たることがたまにあった。
本社の営業部長がたまに「矢代はああいう人間で」というようなことを言っていたが、私はその話題にはなるべく触れないようにしていた。
バイトなので、余計なことを言ってはいけない

話がそれたが、辞めた理由は本当は何なのだろう。
矢代さんに言わせると、プレッシャーに弱い、ということらしい。
聞くと、入ってしばらくは研修で矢代さんが一緒に仕事をしていたが、数カ月後には現場の責任者で一人だちしてあのテナントビルの仕事を任せられたらしい。
しかし、あの現場は保安も警備も清掃も全部同じ会社が担当しているし、清掃の仕事は彼以外はアルバイトだが全員慣れている人たちばかりなので、仕事は特別問題はない。
問題なのは彼だけが作業が遅く、他の人が全員11時前には作業を終えているのに、彼だけがゴミの仕分けとか仕事が終わっていなかったらしい。

他の人達は仕事が早く、段取りもわかっているのもあるが、7時始まりの仕事でも10分とか15分前、あるいは矢代さんのように30分前には来て仕事をしている。
ところが彼はいつも7時ギリギリに来て、仕事が終わらなかった。

彼は彼なりにプレッシャーを感じてはいたんだろうが、他の人のように早く終わらないなら少し先に来て仕事を始める、ということは思いつかない。
それでいて、他の人のように早く仕事が終わらないことがプレッシャーには感じていたらしい。

考えてみれば、この現場では彼が最年少で、一番の新入りである。
しかし、役職で言えば新入社員とは言え、本社採用の正社員で責任者だ。

ごく普通にしれっと
「僕、仕事が遅いんで。」
とか言えるようならいいが、そういうキャラクターではない。

いつも人の目を気にしたり、回りと自分を比べている。
そして、そのことで自分をどんどん追い詰めてしまう。
仕事がうまく行かなくても回りの人に相談したり、自分でどうしたらいいか、考えたりできない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、自分のことしか考えられず、人とうまくコミュニケーションを取ることができない。
それで、ちょっと仕事がうまくいかないと簡単に仕事をやめてしまう。
こういう若い人が多いのだろうか。

彼と他のバイトの人たちでは一回りどころか20も30も年齢が上で、社会経験も豊富で仕事もそれなりにこなしてきたので、仕事を覚えたり段取りを考えて仕事をすることができるのだ。
入って数ヶ月の新入社員に、仕事の段取りを教えたからその現場の責任者だ、と言われてもそうそうできるわけではないだろう。
ましてや社会経験や仕事のキャリアも十分にあるわけではない。
会社も長い目で育てていく、と言っていた割には早くに独り立ちさせたのがいけなかったかもしれない。
大体入って数ヶ月で現場の責任者になれるわけはない。
今は長い目で人を育てることができなくなっているんだろうか。

そもそもこの会社の社員の年齢構成がおかしい。
この会社は、22歳の新入社員と同じ年代の20代前半の社員が一人。
その上は30代後半や40代半ば、50代、60代と続く。
22歳の新入社員と年齢が近く、そこそこ現場経験のある社員が身近にいて、もう少しいろいろ仕事のことなどの相談に乗ってあげられる人がいればよかったが、矢代さんは50代前半のおやじで、さらに全く人望のない人だったので、それは無理だろう。

辞めてしまった彼は、前職は道路の測定の補助作業員や警備員の仕事をしていたそうだが、それも長続きしなかったらしい。
本当は何が不満で辞めたのかがよくわからない。
非正規労働者の問題は、実は社員の定着率が悪く、人がいつかない、ということも大きな問題なんである。
こういうケースが今は多いわけで、それは労働者にとっても雇用主にとっても大きな損失だろう。