非正規労働者めぐろくみこのブログ

非正規労働者が日々感じていることを書いたログです。

なぜ賃金は上がらないのか。

景気は戦後3番目の好況を示しているらしいが、全く実感がわかない。

清掃のバイトは、6月末で契約が終了してしまったので、仕方なく、また新しいバイトを探すことになった。
コールセンターの仕事は、派遣会社に登録して、試験を受け、その試験に受かってから仕事を紹介してもらい、派遣先が採用が決まれば、それでやっと仕事が決定する。
だから、時給1600円の時給に惹かれて電話をかけてみたが、結局は派遣登録に最初にいかなければならないので、めんどくさくなって辞めてしまった。

他にも派遣会社には2社登録しているが、前の携帯の電話番号で登録してあるので、
派遣からの紹介のメールが来なくなってしまった。

携帯は、以前は大手通信会社に契約していたが、今は格安スマホに替えたので、電話番号が変わったのだ。
格安スマホに替えて、まだはっきり分からないが、月に5000円くらいは安くなっているらしい。
月5000円は大きい。

そんなわけで、派遣会社の仕事はわからないので、結局清掃の仕事をすることになる。

6月で契約が終了するのだから、その前に探せばいいのに、相変わらずボォーッとしているので、7月になってからやっと重い腰をあげた。

駅のスタンドにあるフリーペーパーで探すと、自宅から約1時間のところにある私学の清掃のしごとがあった。
時給1000円は安いが、1日7時間15分、というまとまった時間働けるので、電話を掛けてみた。
電話で面接の連絡があり、面接に行った。
この学校は、漠然と名前は知っていたが、あまり著名な大学ではない。
調べて見ると、中の下あたりの偏差値の大学であるらしい。
しかし、自宅から私鉄に乗り、1回乗り換えて降りてみると、郊外にあるこじんまりとした駅から商店街を抜け、住宅街の奥にあるその大学は、落ち着いた緑の多い、なかなかいいところにあった。
大学自体も落ち着いていて、派手な服装をした学生もいなかった。
環境はとてもいい。
しかし、面接の60代と思われる男性は、最初は世間話のようにいろいろ話していたが、最後になると、「これで、面接は終わりにしたいので、もう帰ってください。」
と唐突に言われた。
何か、気に触ったところがあったのか、ちょっとびっくりした。
数日後、提出した履歴書が返送されてきたので、やっぱり私の事が気に入らなかったのかと、思った。

新聞を読もう 「芸人式新聞の読み方 プチ鹿島

私は新聞を取っていない。
だから毎朝駅のスタンドやコンビニで新聞各紙の1面の記事をみて、どの新聞を買うか決めている。
買うのは大体東京新聞で、たまに朝日、毎日の順で、読売、産経はほとんど読まない。
図書館で新聞を読む時もある。

プチ鹿島、という芸人は芸人としてはあまり良く知らなかったが、TBSの荻上チキのSession22やJ-wave津田大介のJam the worldに出演しているのを聴いて初めて知ったのだった。
この番組でプチ鹿島が新聞ネタをしゃべっていたのが、なかなか興味深く、それでこの本を読んでみた。

原発以降からなのか、新聞やテレビは本当のことを伝えなくなった、と言わるようになった。
テレビはおもしろくないが、新聞はテレビよりは少しはマシなマスメディアではあると思いたい。
記録性があるし、抽象的な言い方をすれば、今でもまだ社会の良心を伝える媒体であるならば。
テレビは視聴率さえ良ければ、という考えがミエミエで、番組の内容も出演者もすべて同じように見えて仕方がない。
夜の深い時間に見る番組はいくつかあるが、別に見なくてもかまわないと思う。
テレビはもはや必需品ではない。
You TubeAmeba TVがあるではないか。
ネットを見れば、それで事足りる時代になった。

さて、「芸人式新聞の読み方」は新聞を愛してやまない、プチ鹿島による新聞案内ガイド、と言っていいかもしれない。

この本で、新聞各紙を擬人化して論評しているところがおもしろい。

朝日新聞 高級な背広を着たプライド高めのおじさん。
産経新聞 いつも小言を言っている和服のおじさん
毎日新聞 書生肌のおじさん
東京新聞 問題意識が高い下町のおじさん
日本経済新聞 現実主義のビジネス一筋おじさん
読売新聞 ずばり”ナベツネ

これらを擬人化しながら、新聞各紙が「安保デモ」の新聞各紙の「見出し」「扱いの大きさ」を比べたり、「社説」の言葉使いから新聞各紙の違いを鮮やかに説明している。
こむずかしいことは書かない。
あくまで下世話なことを話題にしながら、新聞に興味を持ってもらう入門書になっている。
購買数、宅配率が下がり続け、さらに経営的には広告が入らなくなったので、新聞社の経営は今は厳しいだろう。
特に若い人たちはほとんど新聞を読まない。
こんなアプローチの仕方があるなら、新聞を読んでみよう、と思う若い人たちも増えるかもしれない。

最近の新聞はまともなことがあまり書いていないように思うが、それでも新聞各紙にはそれなりに個性がある。
産経新聞は、かつては司馬遼太郎が在職していた新聞社だが、その後経営が思わしくなくなり、財界から資金援助を受け、政界財界の批判的な意見は一切書かないようになったそうである。
私は、個人的には今は産経新聞を全く読まない。
前はネットで無料で配信していたので、なんとなく読んでいたような気がするが、それも気がついたらなくなっていた。
気をつけて読んでいると、産経新聞の記事は、なんとも不可解な内容のものが多い。
それに気づいて以来、読むのをやめたのだ。
産経新聞を手にとって読むことは今は全くないが、たまにYahooで間違って読んで、しまった、と思うのは私だけだろうか。
これを新聞だと思ってはいけない。
政界財界の広報誌、ぐらいに思っていればいい。

さらに読売新聞も、文科省前川前事務次官のスキャンダルを唐突に記事にするなど、産経新聞と同じ穴のムジナになってしまった。
そもそも、読売新聞はずばりナベツネ、とプチ鹿島もはっきり書いているように、社主が新聞を私物化している新聞社である、と考えればいいのである。
かつての社主、正力太郎の時代も新聞を私物化してきた、と何かで読んだことがある。
しかし、読売新聞は、家庭欄が良かったような覚えがあり、とても残念な新聞ではある。
優秀な記者もいたが、辞めていったのも仕方がない話なのだろう。
前川前事務次官のJKバー通いの報道で、劣化もここまできたのかとがっかりしてしまった。
たしかにJKバーに通ってはいたが、それはもう文科省を辞めたあとに、わざわざ新聞の、それもわりと目立つ場所に掲載されるようなことだろうか。
この記事に違和感を感じた人は私以外でも随分多かったはずだ。
これは、加計学園問題のもみ消しのために、自民党が読売新聞に書かせた記事だろうと言われている。
新聞社が政府の言いなりになって記事を書く、この問題の大きさがこの新聞社にはわかっているのだろうか。
繰り返して言うと、今や、読売は産経と同じレベルの新聞になってしまった。
この新聞を読むことはもうないと思う。

朝日新聞は、従軍慰安婦の問題でミソをつけてしまった。
その経緯についてはこの本でも触れている。
朝日は今は何かあると、新聞他紙からいつもツッコミを入れられ、バッシングの対象になっている。
とにかく一部の人達にとって、朝日憎し、の対象にされ、慰安婦問題でいつまでもあれこれ言われるのでは、朝日もやりきれないだろう。
それでもプチ鹿島はそういう朝日に頑張ってほしい、とエールを送る。
朝日新聞は大体10回に1回ぐらいしか買わないが、それでも図書館では必ず読むようにしている。
そして、たまに朝日を読むと、いい記事だな、と思う記事があるのもたしかなのだ。
優秀な記者がどんどん辞めていき、優秀な人材が集まりにくくなった新聞社ではあるが、やはり私も頑張って欲しいと思う。

そして、普段読んでいるのは東京新聞だ。
プチ鹿島東京新聞はお気に入りのようだ。
東京新聞にはあの菅官房長官加計学園問題で執拗に質問攻めにした、望月記者のいる新聞社である。
いつも馴れ合いの記者クラブのぬるい会見の中で、1人まっとうな質問をしたのは望月記者だけだった。
この会見の様子はニュース番組でとりあげられ、大きな話題になった。
全国紙の新聞を差し置いて、一番マトモなのが東京新聞
なんだかなぁ、と思う。

その他にも朝刊スポーツ紙、夕刊紙、タブロイド紙などがSMAP解散や時事ネタを扱って、新聞各紙がどのように扱っているか、などが紹介されている。
本当にプチ鹿島は新聞が好きらしい。
とにかく朝毎読産経、東京新聞に加え、朝刊スポーツ紙、夕刊紙、タブロイド紙迄全部読み込み、新聞各紙の記事の取り上げ方や内容までチェックしている。

しかし、残念だが、新聞はすでに衰退したメディアだ。

新聞の発行部数が減ったのは、単に新聞が面白くないから、信頼性を失ったから、ということもあるだろうが、大げさに言うと、日本の家族制度がすでに崩壊した、ということが大きいのではないかと思う。

新聞は各家庭に宅配され、朝一番に一家の家長である父親が読むものだった。
だから、新聞はある意味では家父長制の象徴だったのかもしれない。

しかし、家父長制は形骸化したまま日本の家庭は崩壊してしまった。
家族が壊れた家庭で、父親の存在がなくなったので、もう新聞を読む人はいなくなったのだ。
その他には景気が低迷したり、若者の活字離れもあるだろうが、家族や家庭が失われたのだから、その象徴たる新聞が衰退の一途をたどる運命なのだろう。

小津の映画やかつてのホームドラマでは、父親がちゃぶ台で新聞を読むシーンが必ずあった。
しかし、今やホームドラマは作られない。
今の日本には家庭がない。
自民党がいくら家族は助け合わなければならない、と介護を家庭に押し付けようとしても、それはもう無理な話だ。
日本の殺人は、その大半が家族や肉親間の殺人であり、これは世界でも特異なことらしい。
親が子供を殺し、子供が親やあるいは祖父母を殺す。
そういう家族形態の中で、新聞はもういらないのだ。

私自身は、テレビも見るし、ネットで国会中継や党首対談や田原総一朗の番組を見たりする。
新聞はほぼ毎日読み、ラジオもほぼ毎日聴く。
さらに毎日Twitterをのぞき、ツィートもする。
ニュースはtweetでチェックすることが多くなった。

twitterでは、日本のメディアで伝えない海外のニュースや、日本が海外でどのように報道されているかをチェックするためで、これは日本の新聞やテレビでは報道されない。

今はネットでチェックすれば、なんとなくニュースも分かったような気がするかもしれない。
しかし、それは表面的なことで、本当のことは何も知らず、わかっていない。
いつの間にか、あることをない、と言い、記憶にないと言い、資料が見つからなかった、と言いくるめられ、自分たちのいいように強行採決をされて歪められた憲法解釈がまかり通るようになる。
本当に嫌な時代になった。

「半信半疑力」を養って、情報の波を自分の力で泳ぎ抜く、その道先案内にこの本を一人でも多くの人たちが読んでもっと気がついてほしい、と願わずにいられない。

2020年になくなる会社

結局、今の現場は6月末でなくなることになった。

先週の水曜日だったかに営業の田中さんがきて、元請けが切られたので、その下請けの私たち清掃会社も契約終了ということになった。

最初、契約終了は8月末まで、というと、
秋本さんが感情的になって、
「それじゃあ、7月8日で辞めます。」
と急に言いだした。
「定期がちょうど7月8日までになっているので。」
と言いながら定期券まで取り出してみせたのだった。
秋本さんのその様子にちょっと驚いた。
田中さんも驚いていたようだが、何か気に入らないことや、自分の考えと違うことがあると、態度が急変して動揺する人なのかもしれない。
いつも口をへの字にして、言葉数が少なく、なにを考えているのかよくわからない。
なにか手伝ったりしても、通りいっぺんに「ありがとうございます。」と言うが、それがそっけなく、通り一遍の言い方で、愛想が悪い。
最初は驚いたが、結局こういう人なんだと思うようになった。

ところが秋本さんが7月8日まで、と言ったので、この現場は末締めなので、それで結局6月末になった。

もう一つのテナントビルの清掃のバイトは、30代半ばの男性とアラフィフの女性が辞めることになった。
男性はもう一つの現場の仕事を頑張りたい、と言い、女性は他のバイトの兼ね合いで、と言っていたが、実のところ時給のいいところに決めた、ということだ。
アベノミクスいざなぎ景気を越えた、とか言われているが、私のような非正規労働者は全く実感がない。

それでも人手不足なので、時給はじわじわと上がっている。
辞めた人たちの時給は1000円だったが、1200円の現場に移ったのだ。
今は、ひとつの現場にいるより、少しでも時給のいい方に人がどんどん流れる。
これは、非正規労働者が使い捨てにされているので、仕方のないことだ。

秋本さんと話をしていたら、前の現場を何故辞めたのか、という話になった。
秋本さんは大きなターミナル駅にある、とても有名な商業施設の清掃の仕事をしていた。
その施設には清掃会社が何社も入っていたのだ。
彼女が契約している清掃会社はあまり大きくはなかったが、そこで長く働いていたのは昇給があって、さらにボーナスと退職金が出るからだ、と言っていた。
ところがその商業施設が出入りの業者をまとめたいので、清掃会社も1本化して、大手清掃会社が受け持つことになった。
彼女はその大手の会社に契約し直せばその現場を続けて働くことも出来たが、辞めたのだった。
それは、いままでの昇給やボーナス、退職金制度がなくなったからだった。

待遇というのは高いところに合わせるのではなく、低いところに合わせられるらしかった。
大手の清掃会社は、こういった清掃員は代替可能な消耗品としか思っていないのだろう。
だから、非正規労働者の清掃員はどんどん待遇のいいところに移ってしまう。
考えてみれば、会社勤めをしていた頃は、たしかに定年退職後の契約社員やパートの主婦の人がいた。
そういう人たちは、ずっと長く働いていたので、正社員と同じ待遇ではなくても、ボーナスの時は金一封ぐらいは出ていたような気がする。
こうした人達は長く働いていたので、人間関係もできていたし、仕事の習熟度もそれなりにあったので、仕事や労働環境は安定していた。
それが、正規労働者も非正規労働者人もどんどん変わるので、職場環境はその場その場のやっつけ仕事のようになっている。

テナントビルの清掃は、アルバイトが2人辞めるし、今いるアルバイトの人も何人かはいい加減な仕事をする。
しょっちゅう遅刻をしてきたり、当日になって急に休んだりする。
正社員で入ってきても、3日たったら来なくなった人もいた。
だからそういう人たちに、責任者の矢代さんや本社の人間が振り回される。
しかし、今は人手不足なので、いい加減なアルバイトでもクビにはできないのである。

アルバイトが2人辞めて、1人は何とか補充できたが、男の方は募集を出して2週間になるが、応募が全くない。
仕方がないので、矢代さんや正社員で何とか埋め合わせをする。
こういうことが続いたら、矢代さんも考える、と言っている。

矢代さんは
「大体この会社もいつまで持つかわからないし。」などと
口を滑らせて言っていた。

矢代さんの言っていることは、最初なんのことかわからなかった。

しかし、なるほど、そういうことなのかと、私はちょっと内心合点がいった。
たぶん、経営者や上司が
「この会社は経営が苦しい。」
とか
「赤字会社だ。」
と日々言っているのだろう。

小さい会社で、会社の経営者が経営が苦しい、ということで社員にガマンを強いるのはよくある話だ。

だから、事務の女性が辞めたり、男性の正社員が辞めても補充せず、残った営業部員がその埋め合わせをしてさらにブラック化しても誰もなに言えないんだろう。

宅配便大手のヤマト運輸は、未払い残業代を支払い、さらに社員を増員して配送料を値上げする。
さらに、配送の時間帯も変更するが、これは会社が大きいからできることだ。

今日本には大小たくさんの運送会社があるが、今後、こうした宅配業者は整理統廃合されるだろう。
資金力ががあって、設備や労務環境がきちんと整えられるところしか生き残れない。
大手何社かに絞られ、その傘下に下請けが入るようになるか、下請けに入れない小さい会社は廃業するしかないだろう。

清掃会社も多分そうで、2020年のオリンピックまでは特需が続くが、その後は不況になって、生き残れる会社は限られる。
安い時給でやっつけ仕事をさせている今の清掃会社は、今でさえ経営が苦しいようなので、生き残るのはむずかしいのではないか、とふと思った。

矢代さんに、転職するなら今のうちですね、と言おうかと思ったが、余計なお世話なので、口をつぐんだのだった。

人手不足のその後

このテナントビルは、最初から契約内容がコロコロ変わるので、人がどんどん辞めていく。
今、月曜から金曜まで一緒に仕事をしている秋本さんは、本社の経理部長の紹介で入った人だ。
作業は、私ともう1人の2人体制なのである。

ところがここにきて、1階が6月いっぱいで出ていくことになり、今まで月水金と週3回の掃除機掛けと雑巾がけが週1日になった。
秋本さんの作業時間が週に2時間短縮されることになると、担当営業の田中さんがそう秋本さんに告げると、
週に2時間時間が減ると、月に1万円収入が減るので、それなら辞めさせてほしい、と言ったらしい。
すると、他の現場を紹介するので、続けて欲しいと言われたのだ。

その現場がこの現場の近くのビジネスホテルだった。

しかし、秋本さんはビジネスホテルの仕事は断るつもりだった。
彼女が言うには、ビジネスホテルは仕事がキツく、腰を傷める。
さらに、1時間か1時間半の作業時間だと思っていたのに、ビジネスホテルでは、最低3時間は働いてほしいと言われたのだ。

それで、彼女はこの仕事を紹介してもらった本社の経理部長に連絡をすると、
その部長の話では、
そのビジネスホテルは日本人は皆辞めてしまうので、外国人労働者が多く、仕事の環境があまりよくない。
さらに、シフトは基本は9時から3時までなので、遅く行って早く帰るのは回りの人からよく思われないのではないか。
この仕事はできれば辞めた方がよく、そのかわり、時給1100円のところを1200円にするように交渉しよう、
と言われたそうだ。

彼女は時給が1200円になるなら、労働時間が減っても大体同じ収入になるので、しばらく働こうかと思っていた。

しかし、秋本さんがビジネスホテルの仕事は辞退しようと思っていることが、担当営業の田中さんには伝わっていなかった。
だから、本社の代務員と呼ばれる塩田さんが、ビジネスホテルを案内するためにわざわざやってきた。
断ろうと思っていた秋本さんと、初日から仕事を1時までさせようと思っていた塩田さんの思惑が違ったのだ。
秋本さんにしてみれば、現場を見学して面接をするはずだったのに、現場では初日から午後1時まで働いてもらおうとあてにしていたのだ。
朝、塩田さんと話をして、秋本さんはそれがわかったので、内心面白くなかったことは想像に難くない。

だから、塩田さんがビジネスホテルの話をしても、秋本さんがあまりにやる気のない返事をしたらしい。
それで、塩田さんが怒って、結局秋本さんは行かずじまいになってしまった。

結局、本当は予定があったのに、仕方なく塩田さんがジネスホテルに行って、秋本さんの代わりに仕事をしたのだ。
秋本さんが先に帰った後、塩田さんは何も言わず、憮然とした顔をして、不機嫌そうだった。
翌日秋本さんに聞くと、秋本さんは塩田さんにはなにも言わなかったそうだ。
これを聞いて、私は秋本さんの常識のなさに驚いてしまった。
断るにしても、わざわざきてもらった塩田さんに何も言わないのは、失礼な話ではないか。
本当は他にも仕事があったのに、わざわざきたのである。

その数日後、営業の田中さんが来ると、とりあえずは
「すいませんでした。」
と謝っていたらしい。

田中さんは他に仕事を紹介するから、と言っていたそうだ。
私は、結局会社は時給1200円は払いたくないんだろうと、見当をつけた。

この現場は下請けなので、利益率があまりよくない。
会社としての利益を引いて逆算すると、アルバイトの清掃員の時給はなるべく低く抑えたい、というのが本音だろう。

そして、その後営業の田中さんが新しいスケジュール表を持ってきた。
私は月曜から金曜までの作業時間は変わらないが、秋本さんのスケジュール表をみると、秋本さんの作業時間は週2時間半減っていた。

私は秋本さんの作業時間が2時間半減っていることに気がついていたが、興味がなかったので、秋本さんにはなにも言わなかった。

それがやっと、今週の月曜日秋本さんが気がついた。
「最初、2時間減る、と言っていたのに、スケジュール表をみたら、2時間半減らされていたのよ。」と不満げに言った。

そうか。
営業の田中さんは確信犯なんだな、と思った。
前の清掃の女の人も、募集の内容と実際の労働時間が違っていた。
募集は月曜から金曜まで、3時間半、となっていたのに、実際は3時間半の日が3日、2時間の日が1日、2時間半の日が1日だった。
彼女はそれを不満に思っていて、裏では
「よっぽど募集の内容が違うじゃないですか、と言ってやろうかと思ったのよ。」
と言っていたが、春には予定があったので、何も言わないので辞めたのだった。

こういう清掃のような末端労働者は、労働時間や時給などにはシビアである。
今は求人難なので、中途半端な求人内容だと、人が来ない。
だから、田中さんは嘘の求人募集を出したのだ。

これは小さい嘘だろうか。
この清掃会社は、こういう嘘を会社ぐるみで、組織的にしているんだろうか。
それとも、そういう嘘をつくのは、担当営業の田中さんだけなんだろうか。
募集はハローワークだったので、もし募集内容に虚偽があり、それを通告すると、その会社はもう募集を出すことはできない、と辞めていった女の人は言っていた。

前のスポーツジムの清掃のバイトをしていた時も、一緒に働いていた男の人は、よく小さい嘘をついていた。
それも、絶対それ、違うだろー、嘘だろーとわかる嘘を平然とついていた。
「ここ、掃除した?」
とか
「あれ、片付けてくれた?」
と聞いて、
「はい、やりました。」
と言ってもやってないことが多かった。
最初は、
「あれ、やってないよ。」と言っていたが、
何回かすると、この人はこうやっていつも小さい嘘をつく人なんだな、と思うようになった
私はジムの清掃会社の社長があまりにも人間的に嫌だったのもあって辞めてしまったが、こういう人と一緒に仕事をしたくないのも辞めた理由のひとつだった。

日本人は正直で勤勉な国民だと言われていたが、実はもうそれは昔のことである。
2007年に発覚した一連の食品偽装問題は、廃棄食品の転売であったり、食品製造現場でずさんな管理をしたり、メニューの表示が違ったり、賞味期限の改ざんがあったりした。
さらに建築物の耐震偽造問題やオリンピックのエンブレムの盗用疑惑、STAP細胞のデータ改ざん、全ろう作曲家にゴーストライターがいたことが発覚したなど、真偽はよくわからないが、枚挙にいとまがない。
モラルの低下はここまできているんである。

日本人は、いつから平気で嘘をつく国民になったのだろう。

あるはずだった文書を破棄した、と言ったり、確認したがわからない、と言ったり、あることをない、と言ったり、黒を白と平気で言う人達。
そういう人たちが日本を代表する人だったり、社会の中枢にいて日本を動かしているのだから、そういう嘘つき社会になっても仕方がないということなのか。

ゆとり君

清掃会社のバイト先で、お昼休みに社員の人たちと話をしていた。

テナントビルの責任者の矢代さんと、もう1人はゆとり君である。
ゆとり君は30代なかばだが、童顔なのか、そうは見えない。

ゆとり君は、ゆとり世代と言われているセーネンだ。
そのゆとり世代というのは、文科省の2002年施行の学習指導要領による教育を受けた世代のことである。
今までの受験戦争と言われた過度の受験競争の反省から、文科省が大幅に学習量と授業時間を削減し、学校が週休2日制に移行したのをゆとり教育と言われた。
一方では学力低下を懸念する声もあり、逆に学習塾に通う生徒も増えたそうである。
年代では、1987年以降生まれのゆとり教育を受けた世代がゆとり世代である。
私は見ていないが、テレビで少し前に「ゆとりですが、何か」というゆとり世代を主人公にしたドラマが話題になったりした。

J-waveのナビゲーターの堀潤氏はゆとり世代なのだろうか、たまに自分が生まれた時代は右肩上がりの景気は期待できず、この先いいことない時代だと感じていた、と言っていた。
バブル景気は1986年から1991年までと言われるので、ちょうどこのゆとり世代と重なる。
しかしバブルを経て2001年にはデフレ宣言がされ、さらに2007年のサブプライムローン問題、そしてリーマンショックから世界的な金融危機が起こり、2011年には東日本震災と、日本と世界の変換期の時期に育った世代と言ってもいいかもしれない。
世界や社会の大きな変換期の影響をモロに受けた世代といってもいい。
就職率も、その時々の景気に左右され、考え方によっては前のバブル世代に比べれば割を食った世代である。
だからなのか、世の中を達観しているというか、諦観しているというか。
バブル世代のよう自己主張や問題意識はなく、何事もほどほどでいい、と思う世代でもある。

ゆとり君はこのゆとり世代の特徴とドンピシャに当てはまる。

矢代さんは50代前半、ゆとり君は30代なかば、私はこの2人と話をしながら、こっそり2人の考え方を比較したりしている。

ゆとり君は本社採用で、矢代さんの下について、清掃の仕事はこのテナントビル担当になっている。
矢代さんは日、月休みの週休2日で、ゆとり君も基本的には土日休みの週休2日である。

ゆとり君も矢代さんも、ガツガツ仕事をするのはまっぴらで、年代は違うがなぜか2人の意見が一致しているのが不思議だ。
ゆとり君は半年前に入社したが、入社後すぐに結婚した。
結婚するので、この清掃会社に入社することになったのだろう。
50代前半の矢代さんは結婚しているが、子供がいるのだろうか、聞いたことがないのでよくわからない。

その2人が会社のことについて、あれこれ話をしている。

ゆとり君が、
「事務員がやめたんだから、1人補充してほしいんだよね。」と言う。
本社の事務員が2人いたが、1人辞めても補充しないそうだ。

この会社は人が辞めても補充しないらしい。
その上、西田さんという50代の男性社員が3月に辞表を提出し、4月は有給休暇の消化をして、5月に辞めてしまった。
西田さんは、毎月各現場のタイムカードを集める係になっていて、その現場だけで50ヵ所ぐらいあったらしい。
各現場が宅急便で送ればいいだけだが、それをわざわざ取りに行き、辞めた事務員の代わりにバイト料の計算を西田さんがやっていたらしい。
しかし、西田さんが辞めたので、男子社員がそれぞれ手分けして、各自の担当の現場のバイト料の計算をやるようになった。
他人事だが、ちょっとこの会社、ひどくないですか。

ゆとり君も矢代さんも
「給料安いけど、会社は儲かってると思いますよ。」
と言う。
本社のだれそれさんは、
「多分月300時間は働いていますね。」と平然と言う。
「それで本人は何もいわないんですか?」と聞いても、
「まぁ、いっかなぁ〜、とか言ってますよ。」
「まだ若いし、お金が欲しいからいいんじゃないの。」と矢代さんが言う。
「あ、でも、残業代減らされた、とか言ってたな。」と、ゆとり君。
「あんまり残業が多すぎると、たしか労基署からなんか、言われるんじゃないかな。」と私が言っても、労基署と聞いても二人共動じる気配はない。
私はその人に思い当たる人がいて、たぶん30代なかばかせいぜい30代後半で、まだ40代にはなっていないと思われる。
その人は独身のもっさりした感じの人で、前はわりと気さくに話をする人だったが、私が何回か現場の仕事を断ったので、それ以来私に対してはいい顔をしなくなった。
「本社の人たちはほとんど月100時間は残業しているからね。いつ、誰が過労死してもおかしくないですよ。」と他人事のようにゆとり君は言う。
最近では、1人胃潰瘍で倒れて入院しているそうだ。
そのためにまたみんなでその人の仕事を手分けしてやっているので、さらに残業時間が増えているらしい。

私が不思議なのは、そんなに大変な仕事をしているのに、誰も会社に何も言わないことである。
まっ、いっかなぁ〜、で済ませて胃潰瘍になったり、過労死ギリギリで働いているんである。

本当に会社丸儲けである。

「そんなふうだと困るんじゃないの?」と言うと、
「まぁ、たしかに困りますよね。」
と真顔でゆとり君は言うが、矢代さんはこのテナントビル専属の清掃員なので、我関せず、である。

ゆとり君に、会社に何とか言うとか、もうちょっと改善するように働きかけた方がいいんじゃないかと言っても、
「えっ、そんな。ダメっすよ。
そんなことできないっす。」
と、他人事なんである。

矢代さんの年収は、週休2日で、朝7時から午後4時勤務で300万だそうだ。
この金額は安いのか高いのか。
住宅は都営住宅、奥さんもパートかアルバイトをして、矢代さんは毎週休みには東京近郊の温泉にバイクか車で行く余裕がある。
贅沢をしなければそこそこ暮らせるからそれでいいらしい。
ゆとり君の年収も多分それぐらだろう。
しかし、矢代さんの話では、本社の人間に「もう少し仕事をさせてほしい。」と頼んだらしい。
ゆとり君はあまり仕事をガツガツやるタイプではないが、多分奥さんに何か言われたのかもしれない。

2人はその後、本社の60代の上司の話を始めた。

本社には本部長と副部長がいて、この間昇進した本部長は平林本部長で、副部長は神田部長である。
問題はこの副部長の神田部長だ。
神田部長は、年齢は62、3で、多分あと2、3年で定年だ。

この営業職の神田副部長が問題なんである。
バブル時代を生き抜いて来ただけあって、神経が図太く、ガハハ笑いの押しの強さで仕事を取って来る。
しかし、基本的に清掃の現場に精通しているわけではない。
ただ、仕事を取ってきて、あとは男子社員に仕事を丸投げするので、後で仕事の段取りで苦労するらしい。

二人共とも淡々と神田副部長の悪口を言う。
「とにかくさ、現場をかき回してぐちゃぐちゃにするんだよ。」
「それで現場の仕事をぶち壊す。」
「仕事を取ってきて、人を募集して、面接するのも副部長の仕事なんだけどさ、なんでも自分で勝手に決めるのはやめてほしいよね。」
「どんな人が来るのか、一言先にいってほしいわけよ。」
「それで、求人の内容が週2日と土曜の現場だったのに、土曜は出来ない、って人を採用したから、仕方なく担当営業が土曜日に現場に出て仕事してるんだよ。」
「新しい現場の仕事で、やっといい人が決まってよかった、と言っていたのに、他の人をその現場に勝手に決めちゃったりするんだよ。
その上、その人がその現場の仕事が気に入らない、ってへそを曲げたので、回りは大変だったんだよね。」
「このテナントの募集だって、募集は週4日だったのに、応募してきた人がどうしても週5日働きたい、って言うから、わざわざ今いる人のシフトをずらしたんだよね。」
「普通、後から応募してきた人は、その応募の内容に合わせるものなのに、なんでそういうことするかな。」

とにかくバブル時代に仕事をしてきた人なので、いまでも1日10時間や12時間ぐらい平気で働く。
矢代さんに言わせると
「神田副部長は仕事大好き人間だからね。朝5時には会社に来てるんだよ。」
そして、今はどこの現場も人がたりないので、神田副部長も現場に行って清掃の仕事を代務しているらしい。
しかし、
「あの人で務まるのか。」
とみんな首をかしげているんだが。

休憩時間に新聞を読みながら、たまに世間話のように政治の話を振ってみる。
二人共、見事に政治に全く興味も関心もない。

安保法案がとうとう国会を通過するらしい、と言う時に、「そのうち戦争するようになりますよ。矢代さんの子供も戦争に行くかも。」
と言っても、自信なさげに、
「戦争は、ないんじゃないかな。」と言う。

ゆとり君は、「首相も他にテキトーな人がいないからしようがないですよね。」と言うが、そういう問題なのか、とつっこみたくなる。

生まれた時から携帯やパソコンがあって、ネットやSNSがあるのが当たり前だったゆとり君は、仕事中でも暇があるとスマホをいじっている。
一方矢代さんは会社から一方的に押し付けられたスマホはメールの送受信がやっとである。
会社からパソコンで添付資料が送られてきても、その資料が開けなかったりする。

考え方は同じようでも、世代間格差はあるらしい。

少し前にラジオを聞いていたら、ゆとり世代の新入社員が入ってきたら、「小林」という漢字が書けなくて、「コバヤシ」と書いたらしい。
こういう新入社員とどう接していいかわからないそうだ。

要領がいいんだか悪いんだかわからず、どんな場所にも意外と馴染み、あまり物事を深く考えない、ように見えるが、本当はどうなんだろう。
ゆとり世代と言われても、そういう人が身のまわりにいないのでよくわからない。
ただ、正社員で働いていた頃、新入社員で入社してくる社員のレベルがどんどん下がってきている、という感じはしていた。
前の人達が半日でできることが出来なかったり、簡単な事務処理が出来なかったり、びっくりするほど常識のない人たちが残念ながら増えてきた、と思うのは私がおばさんになったからだろうか。

考えてみると、私が新入社員で入社した頃は、毎日注意ばかりされていた。
しかし、注意されていた割には全然聞いていなかった、ということに気がついたのはもっとずっと後のことである。

今、私は末端の非正規労働者なので、特別人を注意することはない。
それでもたまにお店の店員があまりにも常識がないので、注意することはあるが。

矢代さんの清掃の仕方は丁寧で、掃除をしたあとはきれいだ。
しかし、矢代さんがこっそり言っていたように、ゆとり君の仕事ぶりは、
「とりあえず、掃除してみました。」という程度で、中の下の仕上がりである。
本人は清掃の仕事にこだわりもないし、掃除をしてきれいにしよう、という気持ちはないらしい。
仕事に情熱も思い入れもない。
だからといって、ゆとり君の仕事ぶりを批判するつもりはない。
かつての私も事務の仕事をとりあえずやっていただけなので、仕事は通り一遍で同じミスを何回もしていたのだから。

50代、60代がしぶとく日本社会の中枢に居残っている。
しかし、ゆとり世代の若者が日本社会の中枢の仕事をするようになると、いったい日本はどのような国になっているのだろうか。

人手不足

今の清掃の現場は、去年の10月から働き始めている。
清掃は二人体制になっているが、常にもう一人が次々と辞めていくので、辞めるにやめられない状況になっていた。

それでもやっと本社の経理部長の知り合いの女の人が来たので、これでやっと辞められる、と密かに思っている。
諸事情の関係でまだ辞めていないが、私が辞めたらきっとこの清掃会社も困るだろう。

同じ会社の現場でテナントビルの清掃もしている。
このテナントビルの現場責任者は矢代さんという50代の男の人だ。
清掃はアルバイトの他に本社の営業の人が矢代さんのかわりにくることがある。
その本社で西田さんがたまに来ることがあったが、その西田さんが辞めることになった。
西田さんは、矢代さんと同世代だ。
表向きは奥さんのお父様が亡くなられたので、その会社を引き継ぐ、ということらしい。

西田さんは、清掃員にしてはいつも小洒落た格好をしていて、スタイルもよく、人当たりも良かった。
スタイリストな西田さんが、こんな、と言っていいのかわからないが、よくこんな掃除の仕事をしているな、とは思っていた。
仕事はこなしていたが、実はあんまりこういう掃除の仕事は好きではなかっただろう。
仕事ぶりは雑で、ゴミ袋さえ手に持つのも嫌そうだった。

私はいろんな担当営業の男の人が清掃の仕事をしているのを見るようになって、その人の清掃のスキルがどれくらいかわかるようになった。
そして、掃除の仕方でその人が掃除に対してどのような気持ちでいるかもわかる。
ほとんどの人の仕事ぶりはど素人で、とおりいっぺんな仕事ぶりである。
掃除をしてきれいにしよう、という気持ちはなくて、掃除を内心では汚い仕事だ、と思っている。
だから、清掃の仕事に対して実は腰が引けているのだ。
西田さんはこの清掃の仕事が嫌で嫌で仕方がなかっただろう。
そして、その仕事を毎日押し付けられ、ほとんど休みがなかったのだ。

西田さんは代務員という、アルバイトの清掃員が急に用事ができたり体調を崩したりした時に、代わりに清掃の仕事をする人かと思っていたが、そうではなかった。
休みを予定に入れていても、気がつくと仕事を入れられていて、休みが取れなくなっていたのだという。
矢代さんに言わせると、他の人達が仕事を入れられないようにうまく逃げているので、西田さんのように人のいい人にその仕事のしわ寄せがくるらしい。
さらに、半年か3ヵ月に1回、各清掃の現場の報告書を書かなければならなかった。
それが150ヵ所ぐらいあり、その報告書を書くためにその現場にも行かなければならなかったそうだ。
清掃の現場をおしつけられ、さらに報告書を作成し、それ以外にもいろんな雑務があったので、いったいどれぐらいの労働時間だったのだろう。

他の本社の人の話を聞いてみると、西田さんは今はまだ有給休暇を消化しているので休んでいるが、その西田さんの仕事を他の営業部員が手分けしてやっていて、とても大変らしい。

現場が増えているので募集をしているが、人が来ないし、さらに胃潰瘍で倒れて入院している人もいて、その上西田さんも辞める。
以前はブラックもブラック、と営業部員が自嘲気味に言っていたが、今は笑い事ではなく、ほとんどの営業部員は過労死ラインの月100時間の残業をこなしているらしい。

アルバイトがなかなか決まらない現場は、担当営業がその間清掃の仕事をすることになり、この現場の担当営業の田中さんもずっとこの現場の仕事をしていた。
毎朝6時半の現場の仕事は結構キツかっただろう。
最後に来た時は、疲れきった表情でほとんど口も聞かず、時間ギリギリに来て、必要最低限のゴミ集めと各フロアの掃除機かけをして、あとは魂が抜けたような表情で事務室でぼぉっーとしていた。
そして、他の営業部員が来るようになった。
田中さんは以前から忙しく、過労で倒れて入院したこともあるが、今は月100時間の残業をこなしているらしい。

どこも人手不足なので、非正規労働者の時給は上がってはいる。
それでも清掃の仕事をしている人たちはほとんど2つ以上の現場の仕事をしている。
清掃会社は募集をかけてもなかなか人が集まらないと言うが、働く側は時給や時間帯、清掃内容などを結構シビアに選んでいる。
だから条件の悪い所はいくら募集をかけても集まらないんである。

少しでも条件のいいところで働きたい、というのが非正規労働者の本音で、気に入らなければ辞めて新しいところを探す。
結局のところそんなに大した差があるわけでもない。
それでもやはり探す方は必死なのだ。

ところが正規労働者は今の待遇が不満でも、他に行くところがなければ逃げ場がない。
このままいけば過労死だと思っても、今の職場にしがみついて必死に働いている。

西田さんは表向きは奥さんのお父様の事業を引き継ぐ、と言っているが、残った営業部員は今の会社や仕事に強い不満があるから辞めるのだ、と思っているだろう。

人手不足でぐるぐる回っている。
でも、ほとんどの労働者は強い不満を持って働いている人たちのような気がして仕方がない。

となりの宗教

バイト先の清掃の現場で、やっとアルバイトが見つかった。
本社の営業部員がずっと朝早くから清掃の仕事をしていたので、決まってホッとしているようだ。
バイトの人は本社の経理部長の知り合いで、秋本さんという女性だ。
50代ぐらいで、化粧けがまったくなく、白髪の目立つゴワゴワした天然パーマで、後ろでひとつに無造作に束ねている。
真面目だが融通がきかず、気がきかないのでイラッとすることが多い。
しかし、担当営業の人は、
「あの人はいいねぇ。
雑で早いのがいい。」と言う。
清掃の仕事は時間が決まっているので、あれもこれもと真面目にやると終わらないので、決まった時間までに仕事が終わらない、と言って辞めてしまう人もいるのだ。

秋本さんは、経理部長と知り合い、というのは同じ新興宗教の団体に入っている、ということらしい。
そんなに親しい、というわけでもなさそうだ。

その宗教団体は、中堅どころ、と言っていいのかわからないが、創価学会ほど大きくはないが、多分名前を聞けば、漠然とみんなが知っているような宗教団体だ。

私がその宗教団体について聞くと、
「私、あんまり詳しくないんですよ。
死んだ親が入っていたから、お墓の管理があるので私が入っているだけで。」
と言う。
年会費だか、月会費は100円だそうだ。
経理部長は壮年会の部長だが、支部の壮年会の部長だからそんなに偉くない、と言う。
しかし彼女も年に数回は当番が回ってきて、本部だか支部だかに手伝いには行くそうである。

ある支部では、安倍首相の自宅があり、広報誌とか新聞を配りに行くと、安倍首相や昭恵夫人、さらに安倍首相のお母様が出てきたりするそうだ。
寄付は渡せないので、昭恵夫人の実家の森永のお菓子をいただく、と言っていた。
森友学園には100万円の寄付を渡しても、この宗教団体には寄付は渡さないのだろうか。
安倍首相は否定しているので、寄付はしていないかもしれないが。

「じゃあ、日本会議ともつながっているんですか?」
と聞いてみると、
「さぁ、私、あんまり活動の中身とか、教えとか、知らないのよ。」と言われてしまった。

少し前に読んだ、青木理の「日本会議の正体」という本を読むと、日本会議の成り立ちや活動方針、実態などがかなり詳しく書かれていた。
その本によると、日本会議明治神宮を頂点とする日本全国の神社、さらに創価学会以外の日本の主だった新興宗教の組織がすべて網羅されているという。
そうした神社や宗教団体からの豊富な資金源と会員数は、私たちの知らないところでかなりの金額や人数になっているらしい。
創立時の事務方のメンバーは、今は袂を分かった生長の家の人たちで、そのメンバーが今でも日本会議の運営に関わっているので、運営が円滑に行われているんである。
現に、武道館で日本会議の1万人の集会には、きちんと各新興宗教団体ごとにバスを連ねて、1万人が集客されたらしい。
その整然と1万人きっちり集客された現場を見て、青木理はその手際の良さに驚いたと、日本会議の正体の中で書いていた。

森友学園問題で、一般の人たちにも日本会議という団体は注目を集めるようになった。
しかし、名前は知っていても、正体や活動方針を知っている人はまだ少ない。
一般の人の知らないところで、日本会議は着実にいろんな運動をしている。
憲法改正100万人署名も、100万人分の署名を集めたらしい。
運動の仕方は、かつての日本の左翼運動を手本にしたそうだが、その手本にした左翼はいつの間にかいなくなってしまったという。
ある時twitterを読んでいたら、地方で草の根運動をしていると日本会議とか自民党と何処かで必ずつながるそうである。

日本人は、特別宗教に関心がない、と言われているが、本当にそうだろうか。

学生の頃、クラスに何人かは創価学会員が必ずいたはずで、バイト先でも何人かいた。
だから学校を卒業しても、クラスであまり親しくなかった人や、同窓だ、ということだけで、創価学会員の人が選挙になると家に訪ねてきたり、電話がかかってくることがたまにある。
また、平日の昼間や休みの日に、家に突然キリスト教関係の宗教団体の人がパンフレットを持ってくることがある。
そういう人には、失礼にならないようにパンフレットを受取り、帰ったら見ないでそのまま即座に破り捨ててしまうことにしている。
さらに、自宅付近にはいくつかの新興宗教団体の支部があり、今はあまり見かけなくなったが、太鼓を叩いて歩いている集団がそういえばいたりした。

私は特別信仰している宗教もなく、だからどのような宗教団体にも属していない。
しかし気がつくと、案外こうした新興宗教に入っている人たちは、私が思っているより、ずっと多いのかもしれない。
バイト先の秋本さんのように親が入っていた、というだけでさほど信仰心はなくても宗教団体に入っている人もいるのだ。

こうした新興宗教の団体の加入者数と言っていいのかわからないが、入信者数は、多分バカにならない。
そして、そうした新興宗教は、日本会議とつながり、それが自民党支持層と重なっている。

知らないうちにいろんな人が新興宗教に入っている。
その新興宗教に入っている人たちは、自分たちの会費がどのように使われているか、どの政党とツルンでどんな政策を推進しているのか、知っているのだろうか。